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成熟した女を愛せないロリコン・ボーイの世界からキミは本当に脱出しているか(1982年当時におけるロリコンブームの考察)

(左から少女、四谷永一郎、沖由佳雄、早坂未紀、蛭児神建

(大衆週刊誌におけるロリコンブーム特集に言及した米沢嘉博の記事)

下記の文章は雑誌『GORO』1982年3月11日号に掲載された「ロリコン」についてのルポです。1982年春というと少女写真集やコミケロリコン同人誌が隆盛していた頃ではあるものの『ヘイ!バディー』はロリータ路線前で『レモンピープル』は創刊間もない頃。そもそも『漫画ブリッコ』に至っては創刊(82年9月創刊/83年4月新装)すらされていません(つまり「おたく*1という言葉も当時はありませんでした)。この記事は、まだまだ知られざる存在だった「ロリコン」という得体のしれない人種にフィーチャーした、最も初期の記事のひとつになります。


成熟した女を愛せないロリコン・ボーイの世界からキミは本当に脱出しているか────少女の下着に胸をときめかせ、人形遊びに興じる“80年代ビョーキ・ヤング”の悪しき実態

少女写真集のヒットでロリコン・ブームと思ったら大間違い。ロリコンの世界はキミの想像以上にエスカレートしている。ロリコン同人誌の激増、隠れたブームの“人形遊び”......、そこにはギョッとするようなビョーキの世界が展開されている。成熟した女には興味が持てない、やさしい少女に心を魅かれる──ナニ、キミもそう?

ラナちゃん着せ替えセットで遊んでるヤツがいる

キャンパスやストリートを闊歩する“成熟した女”や“手垢のついた女”には、まるで関心がない。砂場でお遊びしている小学生の少女をチラチラと眺め、ブランコで春めいた暖かい日差しを蹴る少女のひらめくスカートから一瞬見えたパンツに、ハッと男の胸をときめかす。

ゆたかなオッパイ、揺れる乳房の雑誌ヌードにはホルモンが分泌されず、少年マンガ誌(断じて少女マンガ誌ではない)の幼い少女のヒロインの、まだふくらまない胸が好き。

部屋に帰ってやることは、少女人形を抱きしめて、切り抜きのイラスト人形〈ラナちゃん着せ替えセット〉でのお遊び──。この着せ替えセットには、ラナちゃんの全裸の切り抜きに、下着はパンティー、スリップ、上着はワンピースにセーラー服。テニス・ルックやバニースタイルはもちろん、スクール水着(!)もあるのだよ。

ロリコン・ボーイ! キミは心優しきビョーキ少年か?

ロリコンという名称の由来は、むろんかのナボコフの中年の少女愛の傑作『ロリータ』で描かれたロリータ・コンプレックスだが、いつのまにかヤングのものになって、ロリコンの語意も説明不用のありさま。

推定だが、日本には、ロリコン・ボーイが約3万人もいる。

だが、詳しく説明しようとするのはむずかしい。だって〈少女愛〉は、マニアにいわせるとペトフィリア(幼児愛)、少女フェチ、ロリータイズム、人形愛、といろいろ複雑らしいのだ。その程度にしても、最悪の犯罪型から、真性ロリコンロリコン・ブームで少女ヌードの審美的美しさに目をひらかれたゲイジュツ型、ブーム便乗型というのもある。

また愛しちゃう対象の少女の年齢でも細分化され、マニアによると、小学生以下の幼女が好きなのはハイコン(ハイジ・コンプレックス、『アルプスの少女ハイジ』なのだ)、アリコン(アリス・コンブレックス、『不思議の国のアリス』なのだ)というんだそうだ。

ヘーッ、おかしなやつがいるもんだ──と、軽蔑しちゃいけない。キミは、薬師丸ひろ子のあの「カ・イ・カ・ン」にハートがおののかなかったか。キミは薬師丸ひろ子よりも、年上ボーイではないか?

ロリコン・ボーイの一般的定義は、大学生なら女子高生、高校生なら女子中学生、中学生なら小学校以下の年齢の女のコに魅かれる男なのだ。

 

ロリコン同人誌一覧

ことにロリコンが多いのは大学生。同好というか同病というか、グループで“ロリコン同人誌”を作っている。東京と大阪で顕著だが、81年春にはせいぜい10誌だったのに、今年に入って大激増して、本誌がつかんだだけでや関東34誌、関西8誌、その他4誌。

●関東版の誌名。

〈人形姫〉〈愛栗鼠〉〈口リータ〉〈幼女嗜好〉〈AMA〉〈ヴィーナス〉〈アニベール〉(のんき〉〈CARICON〉〈クラリス・マガジン〉〈月刊カーシャ〉〈キッチン・ファイター〉〈セント・ローレンス〉〈ままぜる〉〈FRITHA〉〈ティンカーベル〉〈ぼっくす・ぷりーつ〉〈美少女草紙〉(その他6誌)=以上東京。

〈LP〉〈プレザンス〉〈方程式〉〈お気に召すまま〉〈美少女自身・イマージュ・ソフィ〉〈ラナリータ〉〈TO FROM〉=以上神奈川。

〈collection〉〈七色の花〉=埼玉。

〈キャロリータ〉=茨城。

●関西8誌。〈ろりこんCOMPANY〉〈グリフォン〉〈CHINA・DOLL〉〈VOLL〉〈璐麗〉=大阪。〈ネコリータ〉〈どこでも会誌〉=京都。〈美少女学〉=神戸。

●地方4誌。〈聖裸〉=石川。〈すずらん〉=愛知、〈VELVET〉=富山、〈月桂冠〉=愛媛。

なんとまあ、宝塚調、少女チズム、ちらりほらりの嗜虐趣味のこの誌名。

 

6年使用した赤いランドセルをナデナデします(蛭児神建

どーいうのが載ってるか?──例をあげると、同志社大アニメ研と、奈良大映画制作研合同の〈CHINA・DOLL〉(14ページ・150円)は、どうやらアリコン派で、イラストは小学生くらいの女のコ。ヌードは当然ヘアレス。その記事は『ガールウォッチングのすすめ』(公園の少女の盗み撮り法etc)、『少女学特論』……。
ロリコン・ワールドのアジテターは、「女は14歳をすぎたら年増」と断言し、ハンチングにコートを着て、顔はマスクとサングラスの変態スタイルだと噂され、ロリコン世界では過激派として有名な〈幼女嗜好〉の主宰者、蛭児神建クン(24)、吾妻ひでお氏の『スクラップ学園』(秋田書店刊)に出てきたキャラクターといえば「あ、そうか」と思いあたる読者もいるだろう。

まさしくあのキャラクターの本人、蛭児神クンの告白を聞け。

「女性との性体験は一度もないし、成熟したオンナなんてグロテスクなだけですよ。私が興味あるのは、10歳前後の少女の平らな胸。だから子役のころの杉田かおるはカワユイと思ったんですけど、いまはまったく魅力を感じませんよ。

自分のロリコンに気づいたのは中学3年のころです。同級の女のコにはまるで興味がなく、幼稚園のコを見ていると、すごく楽しいんですね。そんな気持ちが高ぶって、悩んで自殺まで考えたけど、少女マンガやアニメからロリコンに入って、この世界で生きてく証として、同人誌を出すようになった。

ま、そういう衝動はありますが、少女にイタズラなんかしない。“少女の敵”になる連中には腹がたちます」

成熟した女は不潔だし、聖少女は自らのタブー。それで「一番つらいのは性処理」で、その方法は、オナニーと、お人形になる。蛭児神クンは、リカちゃん人形20体、骨董に属して入手困難な“プティ・アンジェ人形”を大小あわせて14体も持っていて、次のごとく遊ぶ。

「人形と人形を性的にからませたり、SM風なことをやらせたり。着せ替えもフツーに遊んじゃつまりませんネ。ウルトラマンの人形にリカちゃんの服を着せるとね、これがなかなかカワユイ。それから先日、6年使用した少女のランドセルをもらってナデナデしては想像の世界を愉しんでいるんです」

なんかこう、ヒッチコックのスリラー世界じゃないか……。

●柴田出・医博

「そういう男性が非常に多くなった。だがロリータ・コンプレックスとは内容がちがって、18~19歳で性的に成熟しているのに、勃起しない、性欲がないなどのインポテンツ傾向がある。つまり、愛してるというその少女と同じ程度にしか成熟していないんです。やはり親の過保護の問題が非常にからんでいるようです」

満たされないロリコン・ボーイは、スクリーン、ブラウン管、マンガ誌に、こうして救いを発見することになる。そして、好きなキャラクターごとに分派を作る。同人誌名〈クラリス〉の由来が、『ルパン三世』のカリオストロ城のヒロイン“クラリス”からきているのがピーンときていたら、キミは潜在的ロリコン・ボーイの〈クラリス派〉に属する。クラリス派はお嬢サマ風のコが好き。これに対抗するのが、『未来少年コナン』のおてんばヒロインの〈ラナ派〉。

ロリコン・ボーイ人気マンガ少女キャラクター、ベスト5。

①〈陽射し〉
②〈水底〉
③〈水仙
=以上、吾妻ひでお作品に登場する少女。
④〈みゆき〉の妹=あだち充
⑤〈ポーの一族〉のメリーベル=萩尾望都

●アニメ少女ベスト5。
①ラナ
②ハイジ
③〈女王陛下のプティ・アンジェ〉のアンジェ
④〈魔法使いサリー〉のサリーちゃん
⑤〈ワンダー3〉のボッコ

もー、ガックリきちゃうナ。

●シネマ少女俳優ベスト5。
①〈シベールの日曜日〉のパトリシア・ゴッジ
②〈タクシー・ドライバー〉のJ・フォスター。
③〈ロリータ〉のスー・リオン
④〈ねらわれた学園〉の薬師丸ひろ子
⑤〈小さな恋のメロディ〉のトレーシー・ハイド。

 

白いパンツがよくにあうつかさちゃんが大人気

ロリコン病を病コウモウの域に達すると、ビデオを買いこむ。TV局はうかつにも、男ならだれにもあるロリコンに気がつかず、使い古しの性体験ホーフのタレントばかりうつす。そこでロリコン・ボーイは、一日中「おかあさーん」のハナマルキのCMに登場する田舎少女をビデオで見る。その押入れに隠しているのは、イトーヨーカ堂のチラシの子供用肌着を身につけた写真の切りぬきだったりする。「タカラ」のリカちゃん人形は欲しいけど、母に見つかったら怖いから母の目をくらませられるのはそこで少年誌になり、週刊『少年チャンピオン』は、ロリコン・ボーイ急増を肌で知ったか、「白いパンツがよく似合う小学5年の賢い少女」つかさちゃんがヒロインの『あんどろトリオ』を登場させた。ストーリーは、ま、毎回、ませガキ番長に「パンツを見せろ」とせがまれるだけ。

ただし同誌の阿久津邦彦編集長は、もうファンクラブまでできているが「読者の3分の1は女のコ」という。すると3分の2は男。

作者の内山亜紀氏は、ロリコンだからウケたとは思ってないんです。絵のおもしろさじゃないかな。私の描く線は細いから少女的で、少年マンガっぽくないから。それにぶっちゃけた話、ロリコンというと暗いイメージがありすぎるでしょ。ロリコンといったって、マイコンの一種と思う人もあるだろうし…」

語るに落ちた……とはいわないが、潜在的ロリコン願望をかきたてたといえるだろう。

●心とからだの相談センター代表・荒川和敬氏

ロリータ・コンプレックスの正確な意味は“早熟な思春期の少女に翻弄される中年男のどうしようもない情念”でしょう。いまいってるロリコンは、そうじゃなくって、若者の未成熟、精神構造の未発達で、女性に対する自信のなさがその内容ですね。
大人っぽい女なら“あなたダメじゃないの! もっと私を喜ばせてよ”というかもしれない。だったら、そんなことをいう危険性のない少女がいい。意のままになるカワイコちゃんがいいーということになる。バージンじゃなきゃイヤダという感覚はすでにしてロリコンの現われです。そもそも日本の男性が処女志向なのは、自分の性行動についての自信のなさの証明です」

大阪大学・梶田叡一助教授(心理学)

「私の高2の姪のボーイフレンドが大学生なんですよ。やっぱり女が強くなったんです。同じ年頃の女子大生ではやりこめられるから、高校生の女のコとつきあう。こういうのが、いま結構多いんですってね。まあ、これくらいなら、彼は年上、彼女は年下が自然でもあるし、病的じゃない。

けれど欧米で、一時期、少女ヌードの雑誌やフィルムがものすごく流行したことがあって、ことにスウェーデンデンマークのポルノは、SMと少女趣味になっていった。小さな女のコに関心がむくと相手が非力なだけに、男にはどうしてもサディスティックな心理が出てくるんです。

現代は、若者がまず第一に性的なものに関心をもたぎるをえない社会状況にあるし、一方、ロリコンが商品化の過程にある。オジンのひとりとして残念ですよ」

「残念ですよ」に──は、複雑な思いがこもっているのだ。スウェーデンは性犯罪がふえたので、15年前にボルノを解禁した。とたんに犯罪は減った。しかし、普通だった社会で、新しい性的方向を打ちだしたものが売れたら、性的犯罪がより減るのか増えるのか、証明はまだないのである。

 

かわいい少女のマンガをかいてれば満足なんです

ヤンングの心理にみなぎっているウツボツたるロリコン願望、バージン願望を証明したのは、昨年発売されてたちまち20万部の大ベストセラーになった少女ヌード写真集『リトル・プリテンダー』(ミリオン出版)だった。モデルの女のコは、オール11歳。同社の平田明社長は、「いま田中薫子ちゃんというコの6歳から9歳までの記録をとっていて、この夏ごろに出版します。隣のナントカちゃんとちがって、非常に気品のあるコですよ」

この夏、薫子派がブームか?

さらに、ロリコン君は、映像を見るだけでなく、実物にさわれるようになった! ロリコン・クラブが急増している。そのひとつ、『少女サークル』(仮称)は、東京・目黒駅付近のマンション5室を借りている。

オーナーの匿名氏が説明してくれる。

「少女といっても、18歳以上の女子大生で、まあ19歳以下に押さえています。一昨年あたりから男子大学生の少女に対する憧れに気づいて、昨年11月から始めたんです。やはり客層は、70歳の老人もいますが、20歳ぐらいの学生で、少女趣味や、妹に対して近親相姦的な願望をもっている人が多いんです。でも肉体的接触はできますが、ズバリはやってません。プロ的感覚でいえばサービスは劣ります」

しかしインポテンツ傾向の口リコン・ボーイならば、むしろズパリは不用だろう….…。肉体ではなく、心の空白を慰めてもらいたいのだから。このロリコン・クラブは、入会金3000円、コース料1万3000円。それでも電話は鳴りっぱなし。

けれど、ほとんどのロリコンボーイは、まだまだイメージのなかにだけ住んでいる。

その典型をあげるなら、同人誌〈璐麗〉のT・Sクン(関西大学法学部1回生)。

「ボクはかわいい少女のマンガを描いて、好きなポーズをとらせてれば満足なんです。大学の友だちのなかには、中学生の女のコとつきあうロリコンもいますけども。ボクですか? ハィ、童貞です。キスの経験もありませんよ。プロの女性は好きじゃないけど、処女志向でもないんです。でも、実行しないでもいいんです。イラストというはけ口がありますから」

「セーラー服……いいですね。ブルーマーは……これもいい。ミニスカートのパンチラは……すご~くいいです」という返事。

さて、その同人誌にのせた漫画『眠れない夜』は、ふと目がさめた少女が下着が濡れているのに気づいて外に出ると、そこに宇宙人がいて、じつにさまざまな体位で責められるもの。なるほど、絵による完全な代償行為。

ちなみに彼は5人家族で、2人の姉妹にサンドイッチにされた、たったひとりの男のコ。定期入れには〈璐麗〉に掲載の定期用ミニ・ブロマイド、ハンカチは青・赤・黄色・白の5色少女イラスト入り。

〈CHINA・DOLL〉の田頭泰クン(同志社大2回生)は身長180の筋肉マン。

「彼女? いますよォ。ぼくのこの趣味をおもしろがって笑ってます。ピンク映画だって、オレ、見るんだから。ロリータ趣味はだれにだってある。ナポレオンもそうだった。行動に移せば変質者ですが、ボクは日陰ものだったこの心理に市民権を与えたいだけ」

これがブーム便乗型!?

●性科学者・石渡利康氏

「英雄志向のアメリカにはロリコンは少ない。日本は女性的なんです。しかしロリコンは自分は優しく、性欲がギラついていない人間だと考えている。トルコにも行きませんからね。だから攻撃的でなく変質者でもない、けれど困ったことに、その未熟な性から脱出しようとも思っていないんです」

いま、人形趣味のロリコン・ボーイがかかっている最新のビョーキは《こえだちゃんシンドローム》。リカちゃんのタカラか発売した、身長5センチの2頭身半のブラ人形。抱きしめ、頬ずりをし、一緒に寝る。ロリコンの極致リカちゃん派をして「こえだファンは異常だ」といわしめるほどだ。

異常の有無は異常さの典型の形でわかる。ロリコン・ボーイよ、キミはやはり、ちょっと病んでいるんじゃないか──。


森野うさぎは『シベール』終刊号(1981年4月発行)に「こえだちゃん」のパロディを描いている。上掲記事には「最新のビョーキは《こえだちゃんシンドローム》」「ロリコンの極致リカちゃん派をして『こえだファンは異常だ』といわしめるほど」等という記述があるが元ネタはおそらく彼周辺の広めたパロディだろう。

*1:「おたく」という言葉がない頃、70年代末から出てきたオタク文化(若者文化)は80年代的面白主義と合流して「ロリコンネクラ族「ほとんどビョーキ」等と形容された。