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竹熊健太郎×岡田斗司夫 オタク・サブカル大放談 “鬼畜”に走るサブカル雑誌に未来はあるか?

竹熊健太郎×岡田斗司夫

オタク・サブカル大放談

“鬼畜”に走るサブカル雑誌に未来はあるか?


雑誌の世界は今、サブカル雑誌ブームで、オシャレ系や鬼畜系など百花繚乱。なかでも“鬼畜系”と呼ばれる惡趣味とグロを売りにする雑誌が人気だ。退屈な時代を反映して、メディアはとうとう“最後の刺激”を商品化する!(構成・宇井洋)

 

90年代鬼畜・サブカル雑誌の原点は70年代アングラ雑誌

アクロス:今日はサブカル雑誌をアトランダムに選んできましたので、まず最近の雑誌の状況から始めましょうか。

岡田:分類から言えば、まず『鬼畜ナイト』とか『危ない1号』みたいなものがあるよね。

竹熊:鬼畜系というか。

岡田:悪趣味系と申しますか。

竹熊:あとオシャレ系。『スタジオボイス、『バアフアウト!』、『CUT』とか。

岡田:うーいやだ、目が汚れる(笑)。

竹熊:俺も書いている『クイック・ジャパン』がその中間にあるんだよね。

岡田:いや、クイック・ジャパンはバアフアウト側ですよ、どっちかと言えば。境界線は根本敬が載ってるかどうかだよね(笑)。でも、クイック・ジャパンは広告が入っていないもんな。やっぱり、鬼畜側かなあ。

竹熊:まあ、俺と大泉さんだけで、アングラの方に引っ張ってるんだよな。

岡田:そうじゃなきゃ、表4にもうちょっといい広告が入りますよ(笑)。

竹熊:まあ、広告は永遠の問題で、オシャレ系とアンダーグラウンド系の。

岡田:表4がバアフアウトもCUTもカルバン・クラインですよね。読者はカルバン・クラインを載せれば買うわけ。でも、鬼畜系は載せても...。

竹熊:買ってくれない(笑)。

岡田:つまり、消費者がよく訓練されているひつじ系の雑誌ですね。俺はスタジオボイスとかCUTとか、オシャレ系はあんまりサブカルの匂いがしない。ハイカルチャーじゃないですか、言ってみれば。

竹熊:サブカルチャーにはなるんだけど、その中でハイカルチャー寄り。

岡田:だってカルバン・クラインが安心して広告を出せる雑誌がサブカルチャーなわけないですよ。俺みたいにサブカルチャーにあんまり思い入れがない人間が見ても、カルバン・クラインが広告を出している雑誌をサブカルチャーと言っちゃいけないよなと。

竹熊:クイック・ジャパンは広告収入なんて最初からあてにしてないから、その代わりに好きなことやるんだって。

岡田:それだったらクイック・ジャパンもエゲツないビデオ屋さんとか、通信販売の広告とかあってもいいはずでしょ。彼らがインディペンデントを気取るんだったら、やっぱり入れて欲しいと思うな。
竹熊:それは、編集長の赤田君の趣味としか言いようがないね。基本的に鬼畜系は70年代のエロ本の流れなんですよ。だから、風俗やエッチな広告もOKなんですよ。

岡田:その辺りの歴史的な話を教えてくださいよ。

竹熊:まあ、『危ない1号』に関して言えば、昔も似たような雑誌があったんですよ。もっとすごいのがあった。80年代初めに白夜書房の前身でセルフ出版っていうのがあって、そこが出していた『ビリー』。

岡田:ああ、買ってた、そういえば。

竹熊:買ってたでしょ。もうスカトロと奇形ばかり。あれ最初はアイドル雑誌だったんですよ。アイドル雑誌で創刊号を出したら、全然売れなくて。それで2号目か3号目で別の編集長に変わって、それでどうせ売れないんだから、自分の趣味でやっていいかって。そしたら、バカ売れしたんですよ。

岡田:大阪でも売ってましたもん。

竹熊:『危ない1号』の編集長の青山正明という人はその影響をすごく受けてるのね。俺と同い歳だと思うんですけど、僕とか青山君は自販機本とかエロ本の一番いい時期にちょこっと乗り遅れた感があったわけ。僕は20歳で雑誌の仕事を始めた頃には、僕らに多大な影響を与えた『ジャム』とか『ヘブン』が休刊になってた。サイキック、ドラッグ、変態、エロ、あと今のバアフアウト的な要素も全部入ってる。あの当時でいうとパンクですよね。ただ装丁が羽良田平吉だったんで、すごくオシャレ。これは今のクイック・ジャパンといっしょなんです。装丁は青山あたりの本屋で売ってもおかしくない。でも中身はもう今でいう危ない1号とクイック・ジャパンとそのへんを全部混ぜちゃったようなアンダーグラウンド雑誌だったんです。そのころ、青山君は慶応大学で『突然変異』というミニコミを作ってたんですよ。今の危ない1号の原型みたいの。で、青山君は確かロリコンライターで売り出したんです。群雄社が出した『ロリコン大全集』っていうのね。

岡田:ああ分かった。その編集したやつ。

竹熊:それが82、3年の頃ですよね。それからオシャレ+インテリ系サブカル誌の流れというのは、結局70年代に工作舎が出した『遊』が原型なんだよね。

岡田:ああ、有名なやつね。

竹熊:これはニューアカとかニューオカルトも入ってる。松岡正剛っていう知のカリスマみたいな人が作ったんです。あれはデザインの面でも、ものすごく日本の出版界に貢献してるんですよ。それで日本の製版技術と印刷技術は上がったんですよ。あと、『地球ロマン』というのがトンデモ本のルーツですよね。ニセ天皇特集とか空飛ぶ円盤にとりつかれた人たちの特集とか。もう資料とかスゴイっすよ。これの編集長が八幡書店を作って、それに影響うけて麻原がオウムを作ったとすら言われている。だからオウムのルーツでもある。革命に夢破れた全共闘崩れがもうマルクス主義はだめだと、マルクス主義の替わりにオカルトで日本を転覆するって。オカルトなんて信じてないんだけど、とにかく日本をひっくり返すような思想であればなんでもいいと。オウムで本当にそうなりそうになった。アンダーグラウンドの流れは、この地球ロマンで変わったんですよ。

 

エロの飽和の次は、最終商品として究極のグロ?

岡田:そういう熱い70年代のサブカルチャーとかアンダーグラウンドをやってた人がどこいったの。

竹熊:サブカル誌だった『アウト』がアニメ雑誌になっちやったでしょ、1年くらいで。そしたらサブカルを担っていた人たちは怒って、大量離脱したわけですよ。それでどこ行ったかっていったら、『ポパイ』と『宝島』なんですよね。

岡田:『SPA!』でこの間まで編集長やってた鶴師さんもアウトの元編集者ですよね。

竹熊:今に繋がるルーツというと、アングラとは別枠でミニコミというかキャンパスマガジンブームがあったんですよ。80年代初頭にえのきどいちろうが編集した『中大パンチ』とか。

岡田:そうなんですか、ぜんぜん気にしてなかったですけどね。

竹熊:かなり盛り上がりがあったんですよ。その頃から目立った人はみんなプロのライターになってますよね。田中康夫だってそうです。『一橋マーキュリー』っていう、一橋大学が出してたキャンパス誌の編集やっていた。あと木村和久もそうでしょ。彼が大学生だった頃名刺もらったことあるもん。だから本当の意味で80年代後半から90年代の状況を作ったっていうのは、実-は70年代末と80年代前半のそのへんの人なんですよ。

岡田:じゃあ、90年代のこのポコポコあるサブカル雑誌の中で、意味がありそうなやつはあるんですか。

竹熊:分かんないなあ。クイック・ジャパンみたいなのは果たしてどうなるんだろうね。

岡田:10年後くらいに現在を回顧して、サブカル雑誌を見てみると、SPA!サブカル雑誌っていう扱いになるんでしょ。

竹熊:あれはなるでしょうね。

岡田:普通のサラリーマン週刊誌みたいなものをサブカル化したというたいへんな功績があるわけですよね。で恐らく危ない1号は分からないけどクイック・ジャパンもサブカル雑誌として名を残してるでしょうね。

竹熊:全体として今は雑誌がホントにつまんなくなったなっていうのはあるんですよ。面白かったのは86、7年くらいまで。結局、なんで新しいものがないかというと、80年代初頭まであったアンダーグラウンドがなくなっちゃったんですよね。そういう要素は中途半端にメジャーが吸収しちゃったから。強いて言えば『危ない1号』がそうだけど。

岡田:でも、あそこまでやらないとアンダーグラウンドにならない、みんなが過激と思ってくれないっていうのは、次に出すのは何かってことですよ。『危ない1号』を見てて、こんなのぬるいって言っても、次に出す雑誌ないですよ。

竹熊:『世紀末倶楽部』があるけど。あれ『危ない1号』よりすごいよ。さすがに、袋入りで並んでるけど。

岡田:それはどんな内容なんですか。

竹熊:いや、内容は昔からあるネタの寄せ集めなんだけど、全ページ奇形の写真満載。ただ密度と量から言えば極致かもしんない。

岡田:なんでそういうのを読みたがるんですか。

竹熊:さすがの俺も見てるうちに気分が悪くなったくらいだもん。

岡田:80年代のサブカル誌は、まだシャレになる領域じゃないですか。なんか健全な市民生活をやっててですね、俺にもこういう荒んだところがあるのさって、買うのにちょうどいいくらいでしょ。でも『危ない1号』くらいの領域から、普通の人が読んでどうするっていう。どういう人が買ってるんでしょうね。

竹熊:俺とか(笑)。

岡田:でも、日本中に商業出版として成立するくらいの竹熊さんいないでしょ。

竹熊:あれは商業出版として成立するギリギリのラインだと思うね。ギリギリ越えてるかな。思うんだけど、こうした雑誌が出るのは、見世物小屋とかなくなっちゃったでしよ、あと街角にそういう人たちが減ったよね。そういう人たちは施設に入れられたりして表に出なくなってるし。ちょっと評論家的なまとめ方になっちゃうけど、押さえたものはどっかに出るわけですよ。一つはオウムだしさ、一つはそういう出版物だと思うんだよね。だからこれは押さえようがないというか、隠したって存在するわけだから、この世には。

岡田:意外とオシャレな子たちが、その手の本を買っていると思うんですよ。前にアート系の子たちと話してて、どんな雑誌を読んでんのって聞いたら、「本なんか読まないですよ」なんて言ってたんですけども、ところが一人が「マーダーケースブックなら読んでます」とか言ったら、周りもいっせいに「あれは買うよね、買うよね」と盛り上がって。

竹熊:やっぱり、ああいうのはずっとメジャーなところでは完全に規制されちゃいましたからね。だからマイナー出版社が生き残るには、例えばそういう道があるわけですよね。あと今はメジャー誌でもヘアヌード出るじゃないですか。だからエロ出版社が結構ヤバいんだよね。エロ本のお株を奪われちゃったわけだから。

岡田:じゃあ次のステップは一般誌がグロを取り挙げるっていうことになるんですか。だって、『女性自身』とか女性誌見たら、毎週のように奇形とかが載ってるじゃない。

竹熊:あれは、お涙頂戴というか美談にして載せるわけですよ。

岡田:でも、90年代のラストスパートでは、一般誌のグラビアではグロの展開しか残ってないですよね。『週刊新潮』のグラビアページに奇形が載るというのが。

竹熊:まあ流れとしてはあり得ますよね。例えば狂気とかはメジャー誌ではなかなか扱えないじゃない。でも、トンデモってやれば扱えるわけよ。

岡田:鬼畜系とか電波系という言い方で狂気をOKにしてますよね。でも、サブカル誌はそこまでもう掘り下げちゃったわけでしょ。そしたら、やることないよね。もっとすごい部分はインターネットとかパソコンに移っちゃったのかな。

竹熊:それは言えると思う。インターネットの方がむしろサブカルチャー色が強いところがあるね。混沌としてて。本来サブカルチャーは素人のカルチャーであり、子供のカルチャーであり、要するにアマチュアのカルチャーなんですよ。

岡田:パソコン通信が一番とんでもない意見がガンガン載ってて。「この間電波がきて、私は陛下からコロッケ買って来いといわれた」とか「練馬区のどこどこに住んでる女子高生が生意気で、こいつは夜8時から12時まで家で一人だから一緒に行って強姦しよう、仲間募る」とか。これは普通にしてみれば完全なアンダーグラウンドですよ。もう通信がサブカルチャー雑誌みたいなものですからね。

竹熊:だから、昔のようにサブカル雑誌からは新しいライターは誕生しないかもしれないね。まあ、俺らにとってみれば当分仕事があるっていうことかな(笑)。

所載:『アクロス』1996年12月号