腐っていくテレパシーズは1970年代後半から1980年代前半にかけて活動していた天然サイケデリック・ロックバンド。中心人物は吉祥寺マイナー周辺のライブハウスで活動していたアンダーグラウンドなミュージシャンの角谷美知夫。1959年生まれの山口県出身のアーティストである。裕福な家庭に育つが1974年に中学を退学後、住所不定のヒッピーとなる。1977年に東京に移り住み、1978年から工藤冬里や木村礼子と共に音楽活動を開始。1979年にオット・ジョンを結成し吉祥寺マイナーを中心に活動する、その後、オット・ジョンは自然消滅し、以降は「腐っていくテレパシーズ」として活動するが、この頃から重度の躁鬱と幻覚幻聴に悩まされるようになる。精神分裂病がもたらす幻覚作用や霊的感覚を表現した、どうしようもなく崩れ落ちていく陰鬱なロック音楽は「他に例えようもない、特異な感性から放射される音霊」と評された。その後、ジヒドロコデインリン酸塩というドラッグにはまり、1990年8月5日に31歳の若さでオーバードーズによるとみられる膵臓炎で夭折した。翌1991年6月、PSFレコードから生前の自宅録音とライブテープを再編集した追悼盤『腐っていくテレパシーズ』が発売される。なお中島らものドラッグ・エッセイ『アマニタ・パンセリナ』や自伝的小説『バンド・オブ・ザ・ナイト』には「分裂病のガド君」として角谷が度々登場している。
ゆめゆめ うたがうことなかれ
大変な状態になっているんだ
狂った状態になっているんだ
俺の中に外が入ってくる
ゆめゆめ うたがうことなかれ
死ぬほど普通のふりをしているけれど
俺の中にはヨソモノが入りこんでいる
自分のかっこや 派出所や
ここがいったい何処なのか
わからないということが
恐怖して 君に会えない
金もなく 徹底的に一円玉と五円玉が
足の裏についているだけ
この屈じょくを
死ぬほど普通のふりをして耐える
────死ぬほど普通のふりをしなければ
(80年代初頭、東京のアンダーグラウンド・シーンで異彩を放っていた故・角谷美知夫の宅録音源。他に例えようもない、特異な感性から放射される音霊)
腐ってくテレパシーズ
角谷インタビュー
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(所収:1979年『Jam』特別ゲリラ号)
角谷について、「日本のパンクの典型的な魂」という言葉を聞いた。この言葉には問題があるが、彼がこの現代の日本でいわゆるパンクをやるといういささか奇妙なこころみの真面目な負の曲率の極致だということは確かだろう。彼の下宿を訪ねて行くと、そこは表から見ると何気ないアパートだったが、中に入ると、30近くはあると思われる部屋がいびつな空間を形作り、廊下と階段は奇妙な方向を向いていた。そこは江戸川乱歩の小説の舞台を思わせる一方、何故か未来的な感じをおこさせた。ふと目についたある部屋のドアには次のような張り紙があった。
●新聞勧誘、セールスマンお断り。第一、新聞など読むことが出来ません。
(この腐ってくテレパシーズ・インタビューは、角谷がお目当のテープをかけようとするのだが、どうしてもワーグナーがかかってしまうところからはじまる)
角谷(K):あれ、おかしいな、このテープちょっとおかしいぞ。やっぱりおこりはじめたかなあ。物質の反乱。こういうのって共振みたいにして、緊張してて会話なんかを上手くやろうとするとおきるみたい。
X・BOY(X):物との間に。
K:そう、物と対応するわけ。本なんかの場合もあって、偶然開けた本の中に、あまりにも自分が問題にしていることが書いてあったりするわけ。
X:それはC・ウイルソンも、「オカルト」を書いている間に何度もそういう、「暗号」があったって書いているね。それが単なる妄想だったらわりと簡単なことなんだけど……。ボクも、ものすごく緊張して女の娘と公園を歩いていたら、むこうから来た子供連れの家庭の主婦が突然、「証拠を見つけたぞ」って喋ったのが聞こえてきたことがあるよ。それは女の娘も聞いているの。
K:(角谷の“僕ら糞ったれキリスト”のテープを聞きながら)そんなふうにして、ボクの波動の影響を他人が受けるわけ。だから、もうしかたがないから、どんどんかけていくわけ。
X:ははは、それはスゴイ。
K:それは正常な考えでやるわけだけど、ただ同時に、それが荒廃してきたら自分で制御できないわけ。エロティシズムの領域になってくるから。
X:はは、でもそれは他人も感じるわけ。たとえばさ、自分だけが……
K:みんな知ってる。
X:ああ、他人も知ってるわけか。それは気付いてなくてもいいわけ。
K:気付いていない人は一発で気付く。それはやっぱり困るわけよ。おかしい。腐っている。
X:物との関係ではそういうのないの。
K:ヴィアンの「心臓抜き」読んだ?
X:いや、読んでない。
K:閉鎖しているから、何もおきないから物の配列だけで変えていこうとするんだろうけど、それがなけりゃアナーキズムのような政治形態や宗教形態になるわけ。
X:閉鎖しているから並びかえるっていうのは、全てがこちらを向いているから並びかえて外部におけるっていうか…..閉鎖している状態っていうのは、あまりに並び方が秩序正しいから。自分の配列でもないし、他人の配列でもないし……。
K:でも、秩序正しいのもいいと思う。気持いいしさ。ところが、中年のだささとかにくたらしさとか糞ったれが浮き上ってくるとファシズムになるわけ。だけど、宗教の模型性(?)ていうのがあまりにきつすぎて、俺は宗教には行けなかったわけ。だから、「糞ったれキリスト」。自分自身にそのような妄想があるから。
X:だから、キャンディーズのように、「もう普通になりたい」
K:そう、そういう俗っぽいような、地獄のようなところもあるのね。問題はもう分っているんだけど、動けないんだ。全てを止めて外国に行くか、山にこもるか、「夜のはての旅」のようになしくずしになっていくか。
X:ヒュー(元「アーント・サリー」)とバンドをやる話があるって聞いたけど。
K:それはやりたいと思っている。ヒューってすごく覚めてて頭いいしさ。
X:クールなの。
K:したたか。さっぱりしている。
X:静かな曲はやる気ないの。
K:やる気ある。コードも弾かないような。上手くいえないけど。
X:呼吸とからめたような即興形式はあまり考えない。
K:そういうのはあまりない。むしろイコン。
X:ああ、ヨーロッパ的なんだ。
K:それとアフリカ的なのと。
X:ロックのルーツみたいなところね。
K:そう、やっぱりロックを選びたい。それから逆のところではグルジェフのような。
X:ロバート・フリップは聞いた?
K:昨日聞いたけど、あまり面白くなかった。次のが気になる。
X:でも、日本の場合、ああいう意識的な作り方っていうのはあまりないんじゃないの。
K:ない。(無調的な音階を単音で弾いていく)だめだなあ、いざやると。ポップ・ストックポップ!ストック!
X:何? それ。
K:そういうのがあるんですよ。自分にはポップのストックがいっぱいあるっていうのが。
X:資本主義みたいだね。ポップ資本主義。
K:あ、でもね。結局、ロシアの方がバラ十字のエーテル的なエロティシズムみたいなのが強いという気が最近している。冷えてて、空間的で、無駄がない。ただ、ロシア人ていうのは太っているけど。よく、ロシアの一家庭のイメージが浮ぶわけ。オフォーツクなんかの。
X:ドストエフスキーなんて興味ないの。
K:あるけど今さらって感じもあるし…。
X:そんなこと絶対ないよ。
K:それに、いい本屋がないから。旭屋書店なんて本当にひどいし。
X:どんな本屋が好きなの。
K:昔風の悲しい本屋。ヒューの影響だけど。……………………会話形式みたいになってしまうというか、他者との関係において倫理の封印がどうしても解けない。
X:どういうの、それ。
K:ボクの中の自尊心みたいなのが、究極におもむこうとした時、「結局、オレのいうことは面白くない」って感じになってしまう。
X:そういうのって、オレもよくあるよ。何かいおうとして、「もういいや」っていってしまうの。結果への思考が行為をどもらせるわけよ。
K:サービス精神。その反対が民族的なアストラル体的な、感情のみの……そういうのってバカげているんだ。本当にバカバカしいよ。
X:民族的な血でつながっているかのような?
K:他者の一人一人の問題が、抱えていることとか、いる状態が見えるわけ。
X:その時、まったく分らないやつがいたらすごいだろう?
K:ネガティブなグルみたいな奴。
X:毎日くらしてたって、たいてい分かってしまうわけだろう。サラリーマンにしろウエイトレスにしろ。まったく予想外の動きをする奴なんていないわけだろう。
K:しないからさ、ウエイトレスなんか感情的な目配せなんかできたりするわけよ。だからオレはまた緊張してしまう。「早く出ろ」とかさ。
X:だけどさ、そういう目配せにしたってだいたいの意味は分かるじゃない。「こいつはむさ苦しい奴だ」とかさ。
K:違うんだ、違うんだ。だって、サラリーマンなんかさ、すごく俺に共感を持ってくるんだ。体にさわってくるんだもの。悲しそうにして。
X:それはすごい。恐ろしい。
K:恐ろしいよ。
X:親しみを感じるわけかな。
K:バカなんだ。TVとかラジオなんかで、自分の今の状態をやさしさのヒーローみたいにしてやってたりさ、それが瞬間に偏在的におきちゃう。
X:糞ったれキリストだね。
K:キリストってすごく自己顕示欲の強い奴だと思わない。やさしいんだけど、ドラマにあこがれているわけ、スターなんだよ。
X:エロティックだけどね。
K:ホモセクシュアルの極致。そのへんからロゴスとか出てくるんだけど、あ、ロシアは逆ギリシャなんだ。エーテル体においてギリシャ的な形態をすごく持っている。それからバロックの空間意識。それがさ、ギリシャは暖かいのに較べて、逆に冷えているんだ。
X:そういうのを信仰してしまうとどうなるんだろう。
K:そうね、結局、最先端は銃口だろうな。
X:日本の場合は何だろう。何にもないのかな。昔、『JAM』の編集部にいた、八木さんなんかは、「バラのベッドに菊枕」なんていっているけど。
K:日本の場合はありすぎて、いろんなイメージやメディアや物質の表面をどんどん贖罪にしたり消化しているのだと思う。それが一つの誇りになっているのだと思う。
X:国家精神があらゆるものを象徴化してしまうのかな。
K:ちょっとドグマチックだけど、民の卑俗さがそれを最先端におし出していて、それが骨格を作るのに必要なんだ。残酷だけど、地球は今、そのような隣人愛的な闇に閉されているのを感じるよ。笠井(叡)さんは単にそういう霊界の事実を翻訳したにすぎない。でも、自分が王になるっていうのはどう思う。
X:うーん。ちょっと分んないな。
K:ああ、バカバカしい。
X:自分をコントロールできないっていうか、ある確信なんかが閃いても、現宝的な場面でそれを生きるほど強くはなれないっていうのは感じるけど。
K:自分の回路を開き切れないし、むしろそのやらないってところが誇りになっているから……。いろんな人の失敗が分かるだろう。シュタイナーのなしえなかったこととか、ユングのとかさ。そういうのを考えると、何もできなくなっちゃうというか、畏敬の念がなくなってしまう。
X:だから、それはさ、ある種のないものねだりだと思うけどさ、たとえばひとく抽象的になるけど、永遠なんていうのを信仰できれば、失敗にも納得があるわけでしょう。ところが、永遠は信じ込れないし、かといって社会の中のサラリーマン的な価値を問題にしているわけでもないから。
K:そこのところから冗談と本質のフラギリティが出てくる。最近のパンクを間いていると、そういう問題がいっぱい出てきている。「ヘブン」とか「スージー&バンシーズ」とか。
X:飯くいに行こうか。
K:うん。
(二人で出かけた食堂はジャパニーズ・キッチュの極致といったところ。カラオケのテープを置いてあり、私小説文学で頭を腐らせたという感じの店主は、「どちらでもいいじゃないか」主義者にちがいない。ガラス窓ごしにストーンしたかのような中年の主婦やきらびやかな八百屋の店先を見ながら、角谷は話をしてくれた)
K:この店、変な外人がくるよ。注文した後、よく歌を唱いだすの。この間なんか、そいつ路上につっ立って、ぶつぶついいながら自動販売機を見つめていた。
この間、井の頭公園でホモのオマワリに尋問されてキモチ悪かったよ。
X:えっ、ホモのオマワリ。荒々しい感じじゃなくて? オカマっぽいの。
K:そう、オカマっぽいの。でも、でっかくてさ。暗がりから懐中電燈でこっちを照らしながら近づいてくるの。
X:待ちぶせしてたのかなあ。
K:それで駅までついてくるの。急いで電車に飛び乗って振り切ったよ。
X:よくそういうのに会うね。
K:このあたりも変なの多いよ。この間なんか、近所の鉄鋼所でワーグナーを大音響でかけていた。
(食事の後、新宿に出て、喫茶店に入る。注文をするとすぐ、隣のテーブルにコンパ帰りらしき大学生の一団がなだれ込んで来る)
────てめえうるさいよこの野郎。
K:喧嘩だ。喧嘩だ。糞ったれ。気どりやがって、糞。
X:どんなコンサートをやりたい。
K:この間は、緊張して前に出れなくて、かえってそういうところがうけちゃったけど。
X:角谷はどちらかというと、毅然とやりたい方じゃないの。
K:毅然というか、めちゃくちゃ踊り狂ってやりたいけどね。それから、マースみたいに割れたサングラスに黄色い光をつけるとかさ。原始時代の混棒があるじゃない。
X:えっ?
K:石の棒で先が太くなっていてギザギザがいっぱいついたやつ。あんなので頭蓋骨をボクッとかガキッとか殴っていくわけ。ちょっと前に考えていたのは、握りがゴムの赤いハンマーとかね。
X:山手線の電車の中で、懐から突然力ナズチを取りだして、隣に坐ってた奴の頭をぶんなぐって殺した奴がいたけどね。
K:だから、よっぽど腹がたってたんだよ。
────人間は人間なんだよ、お前な
X:原始人みたい。
K:だけど、原始人はあんなに喋らないよ。東京の奴ってさ、結局、恥を内側に持ってて、いきがって喋っている。
バンドでやりたいのは痙レン。それに、粒子的な音のいらいらしたロックンロール。
X:粒子的って?
K:原子のドアを開いてね……うーん、開くっていうのはあまり好きじゃなくて、むしろ閉鎖した内側での電子の放電。
────人間なんていうのはな、学年じゃないんだ。人間性なんだよ。
K:気狂い。臭い。
(喫茶店を出た後、ピカデリーで「さらば青春の光」を見、再び下宿に帰ってくる)
K:ここはいろんな音が入るんだ。TVとか自衛隊の無線とかね。すごい時には、自衛隊のヘリからのやつが五分おきに入ってくるの。信じられないくらい、すごく飛んでいるよ。
X:西武池袋線の江古田駅の踏み切りのわきにビデオ・テレビがあってね。そこの二階にカラオケ・スナックがあって、客が歌っているところをビデオで表に映しだしているわけなんだけど、夕方時のまだ何もやっていないんだけどスイッチだけは入っている時の画面がとてもきれいなんだ。様々な色の粒子が飛びかっていて、それが電車がわきを通るたびに変化をおこすんだ。
K:俺の場合は、そんな音の粒子をキャッチして、それをどんどんミックスダウンしていくわけ。
X:J・ケージのパーフォーマンスにそんなのがあるけど、あれは他人のやっているのを聞くより、自分でやった方がずっと面白いね。
K:低周波っぽい音になっていくみたい。
X:低周波といえば、あの装置をはじめて作ったやつが、どんな効果があるのか実験したら、内臓破裂かなんかで、あっという間に実験だいになったやつは死んじゃったらしいね。
K:ひでえ話だ。(文責・隅田川乱一)
●ズルイロボット
ボクはズルイロボット
ボクはズルイロボット
ボクはズルイ素質が充分だから
ズルイロボットになりたい
ズルイ人間のズルイ精子がズルイ仲間を追いこしてボクができた
ボクの中でズルガシコイ光が炸裂する
ボクはズルイロボットになりたい
カガヤクマーケットの中でカガヤクツメタイズルイロボットに人間を追いこして
…………………
…………………
…………………
ボクはズルイ
●便所
みんなが彼のことを便所って呼ぶぜ
疑似感情
彼は便所でハーケンクロイツと菊の御紋章がつがっているのを見た
疑似感情
彼、腐ったガーゼみたいに生きるのさ
彼には何もかもそれですんじゃうのさ
疑似感情
彼には自殺なんて思いもつかないのか
彼は光の便所に入ってったのさ
壁に一列に並ばされて彼の一生は仲間と小便すること
●銀の幼稚園
ぼろぼろの銀の幼稚園に入園する
オレたちの中の犬
ふにゃふにゃした生物のヘルニアが俺たちを慰め隠す
俺のふるいふるい地下の貯水槽
体がだるい
不安にかられて習慣の眠りにおちる
俺自身の深いかかわりが眠りこける
子供はマスターベーションに夢中で
親指を吸い爪を噛み
お寝小をする
俺は解放されたかった
銀の幼稚園で
山崎春美談「角谷のシ」
俺 なんにも信じない
俺 信じる
ガチガチに凍ればいいのに
あたらしい天体 天体 天体
ナチスなんか 気にするやつはばかみたい
両方の意味なんか 死ねばいい
すごくあたたかい空 氷 水 氷ひょうのう
俺はなにも信じない すてき
神社の奥のバラバラマネキン
こんにちは を してます
カチャカチャ格闘している
つめたいあくしゅ をしてます
倫理の方眼紙が 死んで狂うのさ
この詩を書いた角谷美知夫は、現在19歳。田中トシと共に“オッド・ジョン” その後“腐ってくテレパシーズ”などのバンドを、短期間ずつやった事がある。通称、カド。今は田合へ帰って、脳病院で検査を受けている。分裂熱の初期と思われる被害妄想ががひどくて、道ですれちがった女の子に「ふん!」で鼻で笑われたとか、アパートの隣の住人が角谷を崇拝して、毎日壁の穴から覗いてるとか。そういえば彼の部屋には、灰皿に溜まった吸殻の山が、無造作に畳の上に捨てられてあった。
演奏は、延々と続くギター・リフの合間に、彼が歌おうとして何かに阻まれ、躊躇したあげくに中断する、といったものが多い。一時はヒューと一緒に演る話もあった。歌詞としてはこの外に、「ズルイ人間のズルイ精子がズルイ仲間を追いこしてボクができた/ボクはズルイロボットになりたい/カガヤクマーケットの中でカガヤクツメタイズルイロットに/人間を追いこして」とか「彼には自殺なんて思いもつかないのか/彼は光の便所に入ってったのさ/壁に一列に並ばされて/彼の一生は仲間と小便すること」などがあるが、実際にステージでは聞きとれない。
『宝島』1980年10月号掲載「吉祥寺マイナーのはみ出し者(パンクス)たち」から抜粋(山崎春美著『天國のをりものが』収録)
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それで、休刊後に山崎さん、『ロックマガジン』や『フールズ・メイト』で同じ『HEAVEN』ってタイトルで雑誌内雑誌やってるでしょう。香山リカさん*1や野々村文宏さん*2、祖父江慎さん*3なんかと一緒に。
山崎 祖父江慎は一時期、結核かかったっけ? 多いって結核、高杉弾さんも結核になったって。高杉さんは病気を売り物にしてたから。
───高杉さん、糖尿病もそうでしょ。
山崎 いつ死んでもおかしくないとか書いてたね。結核は栄養とらなきゃならないし、糖尿は栄養とっちゃ……。そういえば群雄に出入りしてたカメラマンで、殺されちゃったのいますよ。市川の一家四人殺し事件で。
───市川の?
山崎 そう。どの死に方もまっとうじゃない。それで、僕が唯一、全然(話が)できないのは、篠崎さん(ロリータ順子)とかね。全然だめなのね、それは、どう考えても。
───まあ篠崎さんに関してはそうでしょうね。
山崎 だから(『Jam』『HEAVEN』にまつわる)ミュージシャン関係の取材は全部僕に集中するかもしれないけど。この『Jam』に載った“ 腐ってくテレパシーズ”の角谷(美知夫)の記事*4、書いたのは美沢さんだけど、まあ、僕にも多少責任あるんだけど。彼の「シ」*5は、あの頃一番強烈だった。僕が『Jam』に書いた小説に挿絵も描いてもらったんだ。
───亡くなったというのは、自殺ですか。
山崎 たとえば飲みすぎとか、そんな。
───アルコール?
山崎 違う違う。リン酸ジヒドロコデイン。僕もちょっとやったけど、あの人、全然(身体のこと)気にしてないの。彼の「シ」って異常だもん。精神科医の松本助六と話してた時に、いろんな変わったミュージシャンの話とかしてたんだけど、僕が角谷の話題ふったら、助六が「それは脈絡が違う」と。「僕は境界例の話をしてるんであって、あれは分裂病」みたいな話になったことはあるけど。
だけど、そういう人間を(『Jam』で)もてはやしたりスクープしたわけだから。その後、僕が追い討ちかけるようなことしたのは、吉祥寺マイナーの記事書いてくれって言われて、マイナーに出入りするミュージシャンの話を(『宝島』で)書いて、その中で一番反響が多かったのが、彼のシ。凄かったから。読者の共感の仕方が。
角谷って、お坊ちゃんでしょ。相当裕福な。だから、何が不満だったのか、典型的な例だと思うのね。それが中央線の四畳半で暮らしててさ。ファッションも、すごい変わってるでしょ。坊ちゃんから始まって、生活の条件すべて満たしてるのに、それなのに……。
───うん、わかります。
山崎 それで、僕が『ロックマガジン』とかで“アフター・ヘヴン”やったのも、アフター・ケアのアフターなのね。
───ああ……。
山崎 ひとつはね。だって、角谷に1ページ、篠崎さんに1ページとか。やったことあるし。
───いわゆる他誌での“アフター・ヘヴン”、“山崎ヘヴン”は、何回やられたんですか。
山崎 『ロックマガジン』で3回、あと、『フールズメイト』でも。『ロックマガジン』のやつは、羽良多さんのロゴ、ヘヴンのロゴをそのまま使ってるからね。……ちょっと待って。今テレビのニュースで……。
───(テレビ画面を見て)え? 酒鬼薔薇聖斗が捕まった?*6(インタビュー中断。一同、画面に目をやり、テロップを見て仰天する)
山崎 え? 14歳……。
─── 14歳!
山崎 14? へぇ……(そのまま酒鬼薔薇の話題にもつれこみ、インタビュー終了)
所収『Quick Japan』Vol.16(構成:竹熊健太郎)
「彼が死んでしまった結果として、人は彼を、そんな自分の生き方を貫いた人として見るかもしれない。でも、人間は誰も、なにかを貫くことなどできはしない。どこにも至れない思いを常に抱えながら、生きてゆくしかない。そのことは、彼自身よく知っていた。だから、終わりたいというような言い方を万一したとしても、死にたいという直接的なことばを使ったことは最後までなかった……」
(ライナーノーツに寄せられた東玲子の文章の一節)
http://www.asahi-net.or.jp/~uh5a-kbys/discj/kadotani.htm
精神科医。山崎版『アフター・ヘヴン』にもライターとして参加。香山リカの命名は山崎春美によるもの。
後期『HEAVEN』に参加後、雑誌『ログイン』を経て80年代中盤の新人類ブームの担い手に。現在はヴァーチャル・リアリティ、マルチメディアのコンサルタントとして活躍。
多摩美マン研、工作舎を経てグラフィック・デザイナーとして活躍。『遊』や山崎版『HEAVEN』ではマンガも描いていた。
*4:角谷の記事
『Jam』の最終号というのは実は二つあって、その実質ラスト号に載った「角谷インタビュー」は、高円寺周辺の若者に「パンクの魂」として伝説視させたものだ。この意味不明なフレーズが彼を死にかりたてたのかもしれない。
*5:角谷の「シ」
ここの文章、いささか分かりにくい理由は竹熊とテープ起こし人が二人とも「詩」と「死」を取り違えていたため。しかし、角谷氏が死んだことは事実であり、なんとなく意味が通じてしまうのがコワイ。
このインタビューが行れた1997年6月28日は、偶然にも酒鬼薔薇が逮捕された日だった。