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ひろゆきが語る「2ちゃんねる」という現象

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2ちゃんねる」の入口

2ちゃんねるという現象

インサイダー情報が集中する巨大掲示板群「2ちゃんねる」の現在と運営ポリシー

ひろゆき

所載:インターネット協会(監修) 『インターネット白書2001』インプレス, 2001年7月1日, pp.204-205

2ちゃんねる」の開設経緯

2ちゃんねる」(www.2ch.net)ができたのは1999年の5月30日とする説と、同年5月16日とする説がある。開設者である私も日にちは覚えていないのだが、1999年の5月、アーカンソー州の片田舎の大学の中で「2ちゃんねる」のスクリプトが作られ、「2ちゃんねる」として公開されたことは確かである。

その頃「あめぞう掲示板」という掲示板群があり、現在の「2ちゃんねる」もインターフェイスは「あめぞう掲示板」を踏襲している。「2ちゃんねる」という名前の由来の1つに、「あめぞうの2チャンネル」という意味も含まれている(生みの親である「あめぞう掲示板」は1999年秋に閉鎖)。他に、“サブカルチャー”という意味もある。テレビの2チャンネルはビデオを接続したりテレビゲーム機を接続したりするチャンネルなのでテレビのもう1つの扉を意味したりするが、そんな意味も含まれていたり。

その頃の「2ちゃんねる」は、無料ホームページサービス(freewebのようなもの)を使って運営されていた。ただ、アクセス数が増えるに従って、サーバーの負荷が増えるので、難癖をつけてアカウントを止められるという事態を繰り返してきた。そこで、負荷のかからないスクリプトを組み、多数のサーバーに分散して掲示板を配置しつつ、ユーザーには分散しているデメリットを気づかせないというシステムを作ってどうにかやり過ごしてきた。

1999年は無料ホームページサービスが世界中でもそれほどなく、英語圏のサービスはほぼ全て試して、中国語圏のサービスにも手を出しつつあるという状態であった。その頃の運営のほとんどはサーバー探しとサーバー移転がメインになっていたと思う。度重なるサーバー移転に飽き飽きして有料のサーバーを使いはじめたのが1999年の夏である。こうして「2ちゃんねる」は着実に成長を始める。

 

メディアを騒がせた「2ちゃんねる」の出来事

2000年から2001年にかけて、「2ちゃんねる」の書きこみが世間を騒がせる事件が立て続けに起こった。ざっと拾ってみると次のようなものである。

2000年4月:「三国人発言」をめぐり、石原慎太郎都知事への抗議運動を展開していた小金井市議の若竹りょう子さんの掲示板が閉鎖された事件*1

2000年5月:佐賀県でバスジャックをした少年が犯行予告を「2ちゃんねる」に書き込む*2

2000年5月:YOSAKOI爆破予告。札幌のYOSAKOI祭を爆破するとの書き込みが爆発事件前に「2ちゃんねる」にあった。

2000年5月:早朝の根岸線で、寝ている人を少年がハンマーで殴打する事件が発生。前日に犯行予告らしきものを書き込んでいたことが判明。

2000年6月:人権問題掲示板内での表現について岡山県部落解放同盟と対話をする。差別的な書き込みを発見した場合は連絡してもらうという形での協力をしてもらうことになる。

2000年6月:民主党菅直人氏より、弁護士を通じて、「2ちゃんねる」上で管氏を騙る投稿を削除するように内容証明が届く。6月に内容証明を公開。

2000年12月:世田谷の一家惨殺事件の予告ともとれる文章が「2ちゃんねる」で発見され話題になる。

2001年3月:日本生命より東京地裁に「2ちゃんねる」の投稿を削除する仮処分の申し立てがなされる。

 

「無料サイト」運営の基本は提供情報のコスト軽減

インターネットでやりとりできるのはデジタルデータだけである(デジタルデータ以外のやりとりはできない)。たとえば、Yahoo!は「懸賞」と検索すると懸賞に関連するサイトを教えてくれるサービスである。このサービスの提供には、関連サイトを探して登録する人的コストと、検索エンジンシの維持開発コストがかかる。そのコストをYahoo!が支払う代わりにユーザーに広告を見せて広告主からお金をもらうことで運営が成り立っている。

他に、ZDNetというニュースサイトを例にとる。この場合はニュースを集めてきて、ユーザーにニュースと一緒に広告を見せて広告主からお金をもらう。当たり前の話と思われる方もいると思うが、これがインターネットでの無料サイト運営の基本である。

営利企業がビジネスとして無料サイトを運営する場合には、ユーザーの希望する情報をいかに安いコストで仕入れて提供するかというのが利益率に直結する。Yahoo!の場合は、いかに安くサイトを登録し、安く検索システムを維持するかというところが高い利益率につながり、ZDNetの場合は、ニュースのコストが安いほど利益率が高くなる。企業のプレスリリースなどは取材が少なく、ニュースバリューも高くおいしいネタになる。

繰り返しになるが、ユーザーの欲する商品(情報)をいかに安く仕入れて提供するかが無料サイト運営のコツということになる。

 

ビジネスモデルとして見た「2ちゃんねる」の仕組み

やっと本題に入るが、「2ちゃんねる」の場合はユーザーの欲しがる情報を集めるコストは限りなくゼロに近い。なぜなら「2ちゃんねる」の運営側が情報を収集するわけではなく、ユーザーが情報を持ち寄ってくれる仕組みがあるからである。こうすることで「2ちゃんねる」の運営コストはサーバー維持コストとほぼ同じ数字になる。商品である情報の仕入れコストは0円で、店舗の地代しかかからないで商売ができると考えればどれだけ有利かわかるだろう。しかも、情報はデジタルデータだから在庫が切れることもない。在庫の切れない商品が0円で仕入れられて、宣伝をしなくてもお客さんが寄ってくるというのが「2ちゃんねる」のビジネスモデルである。

どれぐらいお客さんが寄ってくるかというと、2001年2月23日に調べた結果では、1日のページビューは735万である(ビジネスとして「2ちゃんねる」をやっていれば、広告効果測定のためのデータとしていろいろなデータを出していたと思うが、単なる趣味サイトなので、データはほとんどない)。

しかし、いくら原価0円、ユーザーが情報という商品を商品棚に勝手に並べてくれるといっても、ただ漫然と掲示板を運営していてはユーザーは集まってくれない。コミュニティーサイトをビジネスとして始めた会社がバタバタと倒れている現状がそれを如実に表している。

 

アクセス数急伸の秘密は徹底したユーザー保護

2ちゃんねる」がアクセス数を伸ばし、他社が没落している原因はなんなのだろう? これはビジネスの視点ではなくユーザーの気持ちを考えるという心理学の視点が必要になる。「2ちゃんねる」という店の商品棚にユーザーがわざわざ情報という商品を残してくれるというモチベーションはどこから来るのか? これがわからなければ、綺麗な商品棚だけ並んで商品もお客さんもいないコミュニティーサイトになってしまう。

2ちゃんねる」の特徴として「匿名性」があげられる。よく誤解されるところであるが、匿名だから「2ちゃんねる」が流行ってるというわけではない。匿名というのは手段の1つであり、「2ちゃんねる」が追求しているのは、ユーザーのリスクを皆無にするということである。

インターネットはどこで誰が見ているかわからないものなので、プライバシーを公開することは、それなりのリスクがともなう。たとえば、メールアドレスと性別を入れる掲示板では女性をターゲットにメールアドレスを収集するストーカーまがいな人も現れる。また、本名で発言することを強いるメーリングリストなどでは、投稿者に本名と勤め先を不特定多数の人に公開させるというリスクを負わせている。そういう場所では、個人情報を公開してでも自分の意見を伝えたいと考える人しか情報を出してくれないわけである。

わざわざ情報を提供してくれる人に対して、負う必要のないリスクまで負わせるのは、恩を仇で返すのに近いのではないかとも思われる。また、情報を提供してリスクまで負ってくれるという酔狂な人しか参加できないコミュニティーでは健全とはいえないだろう。

そういうわけで、「2ちゃんねる」では、ユーザーが発言に際してリスクを負わなくていいシステムを作っている。そのユーザーにリスクを負わせないためのシステムの1つが「匿名性」である。ユーザー自身の情報はユーザーが選択的に提供するかどうか決めるべきものであって、システム側が強制するものではないと思っている。メールアドレスを書きたい人は書けばいいし、IPアドレスを出したければユーザーが自分で選んで出せばいいわけである。

情報という商品を提供してくれるユーザーになるべく負担を与えないように作っているので、ユーザーが情報を提供したいという気持ちになってくれるのだろう。

 

マスメディアでは入手できないナマ情報・インサイダー情報が集中

インターネット上にはさまざまなコミュニティーサイトがあるが、なぜ「2ちゃんねる」が流行るのかを書いてくれという編集部の要望であるが、「ここでしか手に入らないものがあるから」というのは、理由の1つになるだろう。

2ちゃんねる」には、通常のマスメディアでは手に入らない生の情報や匿名ならではのインサイダー情報が含まれることがある。今まで、こういったインサイダー情報が大規模に集中して氾濫している場所は、インターネット上に限らず、どこにもなかった。匿名性によりインサイダー情報が増えることについての証明は、慶応大学の国領二郎教授の論文「ネット上における消費者の組織化」(www.kbs.keio.ac.jp/kokuryolab/)に詳しく書かれている。

2ちゃんねる」でしか手に入らない情報の面白さが、私を「2ちゃんねる」運営に駆り立てる原動力であった。だが、運営者が自分である必要はないという事実に最近気づいてしまい、運営自体は飽きている。趣味に時間を取られるのもなんなので、さっさと他人に移譲できるものなら、そのほうがよいだろうと思う今日このごろである。

西村博之・東京アクセス代表/2ちゃんねる開設者)

*1:homepage.nifty.com/BWP/nonframe/store_t/feature/0428_index.html

*2:homepage.nifty.com/BWP/nonframe/store_t/neomugitya/ver3.htm