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21世紀の音は幼稚園からやってくる。今や5才の幼稚園児(=天才少女ナオ)がアヴァンギャルド・ミュージックをやる時代だ!われわれは、どうしたらいいのだろう。(アリス出版『HEAVEN』創刊号から)

21世紀の音は幼稚園からやってくる。

今や5才の幼稚園児がアヴァンギャルド・ミュージックをやる時代だ!われわれは、どうしたらいいのだろう。



時代を先取るオカルト・ポップ

アブサード、といえば、一部の先鋭的なモダン・ミュージックファンの間で、奇妙な噂と共に、神秘のグループとして秘かにあがめられていたが、いまやその呆れ返るほどのアヴァンギャルド性とあまりに快感すぎる音とが、常に新しい刺激を求めて止まない、東京の前衛人間たちの注目を集めつつある。

人をバカにしたリズム、その名の通りアブサード(不条理)なコード進行、冗談としか思えないメロディーが想像を絶する転調を繰り返すサウンドに乗って、神経を逆撫でするような金属的な声で歌う女性ヴォーカリストは、天才少女と噂される、5才の幼稚園児である。

彼女は小さいながら、このアブサードを率いるリーダーであり、作詩作曲編曲もほとんど一人でやるという。いまや80年代の音楽をリードするのは彼女であるとさえ言われている。

彼女についてはあまり詳しいことは分らず、名前もナオとしか分らないが、聞くところによれば、IQがニ五○以上あるらしい。また、オカルト的な能力を持ち、手を使わず、念力でピアノを弾いたりするという。そんな神がかり的な天才少女が、神のお告げによるものか、はたまた、ほんの冗談でか知らないが、半年ほど前に結成したのがアブサードなのであるとか。

アブサードが最も注目を集めているのは、常人にはとても我慢しがたいそのステージにおいてである。

例えば、テクノ・ポップの一つの極致といわれる『メカニックビースト』という曲では、バックの男三人共、何ら楽器は使わず、カシオメロディーだけで演奏するという恐ろしく人をバカにしたものであり、頭のカタイ音楽評論家からミュージシャンとしての倫理性を激しく糾問された。

また、『テレパシー』という曲は、全員が固く目を閉じて瞑想し、手を後ろに組んだまま微動だにしない。場内に流れるのはただ静寂のみ。5分ほどたってから、「ただいま皆さんにテレパシーで曲をお送りしました」と言って終る。面白いのは、これに対する観客の反応だが、「私は確かにその曲を聴いた」という人もいれば、「聴いたような気もするし、聴かなかったような気もする」という人もいる。

このようにアブサードは、ステージにおいてあまり楽器を必要としないという画期的な音楽グループである。また、これは余談だが、客の中にはただただナオを目当てに来る、ロリータ・コンプレックスの男たちもけっこう多いという。

 

問題の生体実験レコード

アブサードは、一〇〇%レコードからシングル盤を1枚出している。タイトルが『恋人の三半規管が気になってしようがない人のための音楽』という長ったらしくも訳の分らないものである。

これは、単に実験的な音楽というよりは、生体実験的な音楽であるという。エレクトロニクスやサイバネティクス、生理学、コレスポンダンスの法則などを応用して、人間の中枢神経を麻痺させるような音作りがしてあるらしい。ナオによれば、これはグルジェフの言う客観芸術なのだそうである。

実際聴いてみると、最初は身体がムズムズしてきて、いたたまれないような感じになるが、それがすぐに快感に変わり、いつまでも聴いていたいという欲求が身体の奥の方から湧き上がってくるという麻薬のような効果を持っている。事実、ドラッグよりもこっちの方がトリップできるといって、このレコードの中毒患者になった人がたくさんいるという。

だが、これはいったん聴き方を間違えると大変なことになる。例えば、杉並区に住む浪人生のR君は、これを深夜、ヘッドフォンで大音量で聴いてしまったため、脳細胞を犯されて廃人同様になり、今では生活保護法の適用を受けて暮しているというし、他にも、江戸川区に住むある主婦からは、主人がたまたまパチンコ屋であの曲を聴いてからというもの、自分はルドルフ・シュタイナーであるなどと訳の分らないことを言って困っている、というような手紙も届いているという。

そこで、彼女らも仕方なくジャケットに〈このレコードは人体に悪い影響を及ぼすので、注意書きをよく読んでからお聴き下さい。また、使用中に、はれ、かゆみ等一の異常が現れた時は、すぐに使用を中止して下さい〉というクレジットを付けたが、最近ついに、ある老人がこのレコードを聴いて死ぬという事件が新聞沙汰になってしまったため、とうとう発売禁止の処分を受けた。

いまやこのレコードは、マニア一の間で、1枚5万円以上で取り引きされているという。

 

天才少女ナオへの独占インタビュー

───ホントは24才だとか、いろんな噂があるけど本当に5才?

「そうよ」

───で、幼稚園に行ってるの?

「うん。月曜日と木曜日と金曜日」

───他の日はどうしてるの?

「今はビデオ・スクールに行って一る。ビデオ・ディスクとか作りたいから」

───前の、三半規管がどうとかいうレコードは発売禁止になったそうだけど、新しいレコードを出す予定は?

「今ね、ウォークマンで聴くための音楽というのを作ってるの。この曲は、この場所から聴き始めて、この速度でこの道順を歩きながら聴く、というふうに聴く環境を指定しちゃうわけ。で、あらかじめ「こっちは、この場所でこの音が聞こえるという具合に、計算して作っとくわけね」

───じゃあ、その曲を聴くためにはいちいち街へ出て、頭にはウォークマン、手には指定の地図かんか持って、歩き回らなきゃならない。大変だね。

「そうね。そのうち長い曲になってくると、ここから電車に乗ってここでバスに乗り換えて、なんてね、だから、これからはね、何か用があって出掛ける時にウォーマンを持って行くというんじゃなくて、ウォークマンでその曲を聴くために街に出る、ということになると思うわよ」

───なるほど。ミュージック・フォー・ウォークマンね。反発する人も多いだろうけど。

「いやなら聴かなきゃいいのよ」

───曲を書くときはどうやって書くの?

「超能力で」

───ステージの演出も自分でやるの?

「そう。思いつきで」

───歌手としては、どんな歌手になりたい?

「そうね、月並みな答えだけど、息の長い歌手になりたいわね。今はまだ肺活量も少ないから、そんなに長く続かないけど、もっと息が長く続くようになりたいわ」

───いや、それは、そういうんじゃなくて、あの、好きな歌手は?

弘田三枝子。この前、ステージで『子供じゃないの』をフライング・リザード風にやったのよ」

───あ、あの曲はいいね。♬お出掛けするときはネ、真ァ赤な、ハイヒール、ってとこが感動的なんだよね。

「じゃ、LPに入れとくわ」

───やったー!

ミルクセーキおごってくれる」

 

ついに明るみに出るイーノのスキャンダル

ところで、ブライアン・イーノがお忍びで来日して、日本中を飛び回っていたことは『ジャム』でも紹介したが、一説によると、来日の目的はナオに逢うためであったといわれている。

イーノがデヴィッド・ボウイーとホモの関係にあったとかいうのは周知の事実だが、彼がロリータ趣味であったというのは、まだどの百科事典にも載っていない。イーノ研究家には見逃せない事実である。

なお、左の写真は、本紙記者が二人を徹底追跡した末、ついに、横浜中華街の近くで撮影に成功したものである。重要な資料となると思うので、各自切り取ってファイルしやすいように切り取り線を入れておいた。

R・ハッターとD・カニンガムがLPのプロデュースをめぐって対立したという話だが、詳しいことは知らない。わずかに聞くところによれば、D・カニンガムがあの無表情な女の声を使って、アブサードのプロデュースは私がやるからあきらめるように、という意味のことをテープにして送るとR・ハッターもあのエネルギーの声で、君こそあきらめたまへ、というテープを送ったりしているという。今、R・ハッターはこんなくだらないテープを作るのに夢中になっているので、肝心のクラフトワークのレコードがちっともできないのだそうだ。

最後に、これがまたオカシイのだが、アブサードにはファンクラブがあり、毎月1回、幼稚園児たちも集めて、楽しい催しを開いているそうだ。会員は一般には募集していないが、どうしても入りたい人は、ナイロン100%でこっそり聞けば、教えてくれる。

SPECIAL THANKS TO:

NYLON100%

LA-GEN

SWEET LITTLE STUDIO

LAST SCENE

 

※なお、最後になりましたが、この記事に関しましては、すべて冗談ですので、本気にしないよう気をつけましょう(引用者注)