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百恵ちゃんゴミ箱あさり事件で有名になった自動販売機ポルノ雑誌『Jam』の編集長が明かすその秘密―わしらのフリークランド

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 自動販売機雑誌 JAM 佐内順一郎

わしらのフリークランド

『Jam』って雑誌知ってる? 百恵ちゃんゴミあさり事件で有名になった自販機雑誌の帝王!とまではいかないけれど熱狂的なファンを持つ雑誌のニュー・ウェイヴ。その若き編集長(25)が公開する『Jam』のすべて!

百恵ちゃんありがとう!

『微笑』の記者がジャム出版(エルシー企画という出版社内に『Jam』専門の出版社を発足させた)に取材に来たのは創刊号が出て2ヶ月ほどしてからだったと思う。一目見て下等物件だと判る男が二人やって来て、具体的なゴミあさりの方法、山口百恵の家をどうやって調べたのか、企画の意図は、Jamとはどのような方針にもとづいて作っているのか、などを聞くので、僕としては初めからこの手の記者を信用する気にはなれず、どのような記事を書かれてもかまわない、と覚悟した上ですべて本当のことをしゃべった

相手は「できうる限り『Jam』の新しいこころみを紹介していくような形で面白い記事を書きますから……」とかなんとか言って、気持ちの悪いニヤニヤ笑いを浮かべて帰っていった。今でもハッキリ覚えているのは彼らの「モモエに関するネタを載せれば確実に売れますんで……」という言葉である。

そしてどのような記事ができあがったかは『微笑』五月二六日号をお読みになれば分かる。「前代未聞!アングラ雑誌が百恵宅のゴミを集め堂々とグラビア公開あまりの手口にファン、関係者は“やりすぎだ!”と」というサブ・タイトルで正に「微笑ならでは」のものだった。かなりドートク的に非難されちゃったもんね。


祥伝社刊『微笑』1979年5月26日号所載)

だけどぼくたちにとってこの記事はとても有効なものだった。というのは、その後この記事を読んで創刊号の申し込み、新聞、雑誌などの取材、定期購読申し込みなどが次々と舞い込んだからだ。

百恵ちゃんどうもありがとう。

ところが馬鹿な読者がいるもので、この企画を連載にしろなんて言っている。山口百恵の使用済ナプキンをグラビアで大衆の面前に公開してしまった今、これ以上何を見せろというのだろう。極致は一回きりでいいのだ。

なお、ゴミあさりページの最後に小さな活字で山口百恵のゴミをプレゼントします、と書いたところ、数名の青少年から申し込みがあったことを付け加えておく。

 

 

『Jam』を始めるまで

世の中には、自分の好き勝手に仕事をさせてくれる場所というものが、まだ残っていた。

今からちょうど一年前、町で一冊のオールカラー・ポルノ雑誌を拾ったぼくは、その中に少女が素肌にパンティー・ストッキングをつけた美しい写真を見つけた。これがフェティッシュの極地で、何とも言えない傑作写真だった。

ぼくはさっそく発行元のエルシー企画に電話をし、こういうフェティッシュ写真のいっぱい載っている本は他にありませんかとたずね、ついでに自分は大学をやめて今好きなことをやって過ごしています、それに友だちとミニコミのようなもの出していますのでよかったら送りますから読んでください……などと話したのだった。

結局一度遊びに来てくださいということになり、こうしてエルシー企画とのつき合いが始まったわけだ。ある場所から違った場所への展出は、だいたいこうしたたわいもないきっかけから始まるものだろう。

初めてエルシー企画に行った日の夜、正確には新宿の飲み屋「池林坊」にて第一回目の企画が決まり、『スキャンダル』という雑誌の中の八ページを「Xランド独立記念版」とすることになった*1

『宝島』誌上ですでに有名な隅田川乱一君と二人でその八ページを作り上げ、それを渡した段階で次号の『スキャンダル』を新雑誌『Xマガジン』として一冊引き受けることに決定。

年明けて一月、特集ドラッグと銘打った今では幻の雑誌『Xマガジン』が発売された。内容はドラッグ・ソング訳詞、笑いガスの実験、実際には存在しない本の書評、不可解SF小説、インタビュー、それに後にマスコミをわかせた芸能人ゴミあさりの第一回「かたせ梨乃の巻」があった。

現在この『Xマガジン』はぼくの手元にも5冊しか残ってない。噂ではかなりのプレミアが付いて売買されているという。

現在の『Jam』はさらにこれを新雑誌として創刊したもので、正式には『Xマガジン Jam』という。

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●Jamの前身=X magazine

 

オーナーと会社のことなど

オーナーはエルシー企画という自動販売機ポルノ雑誌専門の制作会社の社長*2で、とにかく「口は出さないから何でも好きなことをやっていいよ」という恐ろしく太っ腹な人で、実際おなかが太く、ときどきカメラマンに変身して女の子の股間を撮りまくったりする人です。

今のところ『Jam』に関しては、どんなに馬鹿ばかしく、過激な記事を載せても文句を言われたことはありません。本人は三〇そこそこのくせして「Jamなんて読んでも全然わからんもんね、わ。」なーんて言っております。

会社は池袋にあり、毎月『Jam』とか『メッセージ』などの実話誌と呼ばれる月刊誌を五、六冊と、「悶絶トルコ壺洗い」などというとてつもないタイトルをつけて売るグラフ誌と呼ばれるオールカラー六四ページの本を四、五冊作っています。

これだけたくさん出しておきながら、販売に関してはまた別の会社*3があって全国の自動販売機に入れているため、あまり儲からないようです。

有名な亀和田武さんの存在で名をはせたアリス出版も、同じグループの制作会社です。

毎月たくさんのポルノ雑誌が自動販売機で売られていますが、よく売れているのはエルシー企画の『メッセージ』『少女激写』、アリス出版の『ガール&ガール』、土曜出版の『告白人』などですが、売上げは毎月かなりの変動があります。

自動販売機のばあい表紙しか見えないので、たまたま表紙にエロチックな女の子が出てる奴が売れてしまう、ということもあるようです。けれども『Jam』については毎月毎月ビリから数えた方が早いという現状です。(それでも公称一〇万部だから凄いでしょ)

エルシー企画で出している実話誌のほとんどが外注による制作で(社員でない人が作る)だから僕たち『Jam』のスタッフもエルシー企画の社員ではありません。ジャム出版というのはエルシーの中の三軍会社で、隅のほうで小さくなってポルノ雑誌とはとても言えないような『Jam』を作っているわけです。(社長註:その割にはでかいツラしてメシ食ったりソファーで寝たりしてるじゃねーか、バーロー‼︎)

(自販機本では「もう書店では文化は買えない」など編集者によるアジ風自社広告が、いやがおうにも目を引かされた。ただしアリス出版とエルシー企画の二社に限っての話)

 

これがジャムの主力メンバーだ!

まず隅田川乱一君。

彼は学生時代からの仲間で、永年印籠(いんろう)の研究をしています。いまだにその正体がはっきりせず、最近では『宝島』のほか『本の雑誌』などにもオティズムやプロレスの話を書いていますが年齢はわかりません。

次に山崎春美君。

彼は現在、工作舎という出版社に修行に行っていますが、目の下にクマを作ってニヤニヤ笑いながらロックの話をしてくれます。『Jam』では主に音楽ページと小説を担当していて、打ち合わせで会うと作業服を着てときどき体をケイレンさせたりする面白い子供です。

次に高杉弾君。

この人は1号から5号までいますが、どれも大した違いはないみたいです。どうも大した才能はなさそうで、普段はいつも放心していますが、締め切りが迫ると突然思い出したように「自分と他人の区別がつかない」「いつか夢で見たあの素晴らしい場所」等のコピーを考えついてくれます。巻頭のヌード写真のコピーと、「バッド・トリップ」というコラムその他を書いています。

そして僕は佐内順一郎といって、いちおう編集長の役目をしていますが、生まれつき頭がパーなので何をやってもうまく行きません。その上最近被害妄想が強く、道を歩いていると向こうから来る女の子にいきなりぶんなぐられるんじゃないかとか、『Jam』が発禁になってオマワリさんに棒をお尻の穴に突っ込まれるんじゃないかとかがとても心配です。ヌード写真のディレクションや図版集め、レイアウトや原稿取りやオナニーなどをしています。

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●編集長近影

 

企画をどーやってたてるか

まず月の初めに四人の編集者が集まって企画会議をやります。会議といっても、渋谷の喫茶店でお茶を飲むだけの話ですが、だいたいこの席で、殆どの企画が決まってしまう……などということは絶対にありません。たいてい一人は来ないし、ひどい時はぼく一人で企画会議をします。こういう時のために佐内順一郎は1号から3号までいるのです。

うまく四人が集まったときは最近聴いたレコードの話、それに本や映画や人物について、横浜の中華街にホステスが全員オシのバーがあるとか、どこそこのカメラマンはモデルの女の子を手ごめにしているとか、オナニーというものがあるのにセックスなどをする人の気がしれないとか、NHKにフリーメースンが出て恐ろしいことをしゃべったとか、まあ、そんな話をしていますが、たまには存在学とか禅とダダについてとか、神秘学がどーしたとかロバート・フリップやイーノが今何をしようとしているかとか、工作舎の話とかもします。

だいたいこれが編集の第一段階で、これらの話の中で面白そうな所をぼくがピック・アップしておくわけです。そして後日「幼稚園とうんことオカルティズムの問題をポルノ雑誌風にナニしてもらいたいんじゃがのう、ワシとしちゃー」かなんか言って人に頼むわけです。

こんなふーに書くと、何かとっても安易に作っているように感じられるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。

有名な隅田川乱一君も言っているように、現代において、霊的な衝動というものはこのように奇形的な感性を通じて表出して来るのであって、時代の裂け目へのアプローチは尋常な手続きからは決して始まらないのです。

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●企画会議中のスタッフ

 

盗難事件

八月一二日、エルシー企画のカメラマンと新宿歌舞伎町の喫茶店「マジソン」でおしゃべりをしている間にイスの横に置いておいた手さげ紙袋を盗まれてしまった。

それにはJam第七号の原稿とレイアウトの他、カメラに時計にダイヤモンドの指輪、それに現金が四〇万円にマリファナが七キロ、ヘロインが二キロにピストル2挺、ダイナマイトが6本入っていたので警察にもとどけるわけに行かず、ほとほと困ってしまった。

 

股間にジャムをぬるのはいーです

表紙、巻頭巻末カラーなどのモデル撮影は、締め切りが中身のページよりだいぶ早いので大変です。わがJamには岡克巳という天才的な才能を持った変態カメラマンが付いているので質的には毎号自信を持ってお送りしていますが、モデルはとなるとなかなかむずかしい問題です。

こうした業界向けのモデルクラブがいくつかあり、それらのリストを見て決めるバアイもありますし、エルシー企画専属の撮影会社にいるモデルを使うときもあります。なにしろJamの場合、よそでは見れないようなハードな物を撮ることがありますので、そういうときはモデルをさがすのが大変です。

『ヤングレディー』かなんかの広告を見て来たモデル志望の女の子には、パンティは取りたくないとか、ひどいのになると顔が写ったら困るとか言う子がいますが、それでは撮影にならないわけで、そういう子はパスします。

逆に初めての撮影のときから何のためらいもなくパッパッパと脱いじゃう子もいて、だいたいこちらの方が多いようですね。

よくヌード写真のカメラマンなんてえのは脱がせたモデルはみんなヤッちやうんだぜ、なーんてことをいいますが、あれはウソです。本当にウソです。そんなことはありません。まあ、中にはそういうことをする人がいるかもしれませんが、ジャム出版、エルシー企画周辺にはそういう人はいません。

撮影のやり方というのは単純で、ある雑誌の巻頭カラー八ページなら八ページ分の企画、設定などを編集者が考え、それを発注書にしてカメラ部に渡すわけです。だいたいJamの場合、表紙、巻頭、巻末と三回の撮影が行われます。

とにかく一番苦労するのは、ポルノのパターンなんて、とっくに出つくしているわけで、いかに新手を考えるかということです。

僕の面白美学によると、女の子の股間にジャムをぬりたくるのは面白いけれども、ジャム、山芋を突っ込んだり、サラミソーセージを入れたりするのは猥褻でも何でもない‼︎ そーゆーのはダサい!

あと巻末については毎月フェティッシュ風接写写真でやっていますが、これが大好評で、特に八月、九月に発売された号の巻末はかつてどの雑誌もやらなかったというものです。何かポルノの新手があったら教えてください。

 

『Jam』ひん出用語一覧
真実、八百長、禅、幻想、奇形、神様、天皇、コンセプチアル、官能、愛、夢、オマンコ、狂気、肛門、芸術、乾電池、オナニー、幻覚、山口百恵竹下景子、フェティッシュ、天才、快感、クァイカン、冗談、月、外科病院、暗号、アナーキスト、物質、変態、あれ、ダダ、暴力、サイケデリック、馬鹿、百姓、中卒、東北、興奮、主婦、霊的衝動、革命、プラスチック、深夜、星、存在学、脳みそ、タンポン、足の裏、問答、くそ、原爆、テロ。

 

工作舎のこと

スタッフの一人が工作舎の遊塾生であることや、『遊』の特別組本(は組)に原稿を書いていることもあって、工作舎とは仲よくしています。図版や原稿を回してもらったり、工作舎のスタッフに原稿を頼むこともあります。

『遊』は第Ⅰ期の頃から見ていて、Jam創刊に大きな影響を受けてます。最近組本などで聖俗革命(アンシャンレジューム)を謳っているようですが、Jamでは工作舎とは別のアプローチで聖俗革命を起こして行きたいと思っています。

 

X-LAND

XランドというのはJam創刊の三か月前に『スキャンダル』誌上で独立を宣言したコンセプチアル国家です。

生活に夢を持たない人々のための国境も、法律も、制度もない、いってみれば、ただ革命だけを求める超デタラメ国家なのです。

ただ宮内庁というのがあり、天皇がいます。今上天皇は第三代目ですが、それが誰なのかは誰も知りません。毎月Jamの一六ページを占めるXランドの最後のページに、天皇から国民ヘの求愛のメッセージが載っています。

他には情報ページ、写真、Xボーイ・エキスプレス、インタビュー、レコード紹介、書評、市民の声などがあります。

 

まわりのイカレた人たち

Jamの原稿は前にあげた四人の他、工作舎の後藤君、中島君。大阪に住んでいる坂口君、この人はサイケデリック・ミュージックにやたら詳しく、今度アメリカに行ったので、その話を連載する予定。あと吉祥寺の「マイナー」関係の人たち、漫画は『ガロ』編集長の渡辺和博さんと、天才と言われる蛭子能収さんに頼んでいます。

渡辺和博、通称ナベゾ氏はセックスの一回性と子供の性生活、それにナチズム的ラリパッパ主義に燃えるオートバイ少年で、はっきり言えば、かなりの変態です。

あと表2と裏表紙をやっているのは『ダヴレクシー』というシャレた雑誌で世間をアッと言わせた羽良多平吉さんで、抜群の虹色感覚を見せてくれます。

それに「ウィークエンド・スーパー」のセルフ出版の人たち、天像儀館のお芝居の戯曲やプロレスで有名な変態坊主の上杉清文さん、イラストレーターの南伸坊さん、京都でマリファナ裁判をしている現代の仙人、芥川耿さん、神道ヨジレ派で現在失踪中の八木真一郎君、「迷宮」の武田さん、武邑さんなどなど、つき合っている人たちは限りなくいるのです。

まあ、どの人をとってみても一筋縄ではいかない変態ばかりで、Jamが日本一面白いと言われるのも当然のことでしょう、なはははは。




 

Jamに関する噂

●編集後記は誰が書いてもいいらしい。この前、編集長が喫茶店でとなりの女の子に頼んでいるのを見た。

●Xランドの天皇というのは若い女で、月に一回全員が渋谷の貸ビルの地下に集まって秘密の儀式をするらしい。

●Jamのバックナンバーは総て売り切れで一冊も返本がない。何か秘密の念力をかけているところを見た奴がいる。

●高円寺付近ではJamが異常な人気で、発売日に自動販売機の前に並ばないと買えない。

山口百恵ホリプロがゴミあさり記事に対する報復を密かに画策しているらしい。

●今年いっぱいで休刊になるという話を編集長から聞いた。

●2千万の金をつんで大原麗子を巻頭カラーで脱がせる交渉に成功したらしい。休刊号でハデにやると豪語している。

●次号はいよいよ大場久美子のゴミあさりをやる。

 

第八号制作過程

あああ、企画が全然出ねえじゃねえか、ばーろー!少しはマジメに考えろちゅーとるのが判らんかこのっ!ばば、ばか、そんな話が雑誌に載せられるわけねーだろーが・あ、汚ねえなあ、よせ!やめろ!脱ぐなっ、こんなところで脱ぐなってば・そうそうおちついて、さてそれでは何か面白い話はないですか?どうでしょうか・うん、うん、それいってみよーか、キミ書く?え、書きたくない?なにっ、そうゆー話はお前が書かなきゃ他に書く奴いねーだろーが、ばーろー‼︎ あ、わかった、わかったから脱がないで、お願い困ったもんだねぇ、こう原稿が遅いとねぇ、印刷屋に渡すのあさってだよ、あさって・うわぁ、もう時間がない時間が、さっきの図版どこいった?それじゃないよ、どこいった、ないない、それじゃないちゅーとるのに、もうっ・うわっ、このレイアウト間違っとるやないか、くそくそくそ、うわあ、時間がない時間がない時間がない時間がないそう、そのポーズ、そのまま動かないでね、はい、きれいだよ、バシャッ、うん、いいなぁ実に美しい!はい今度はお尻の穴に指入れてみよーか、え、恥ずかしい?そんなことないでしょ、きれーだよ、うん、いい写真が撮れるからね、はいいってみよう、そうそうもっとグィッと、はい、そこでもだえる!バシャッ・もしもし二〇字の八六行で書いてね、あしたの朝取りに行くからね、書いてなかったらひどいよホントに・うわぁ、ねむいねむいねむいねむいその辺にある雑誌の写真ぶち込んどけ、そうそう・うわぁ、きたねぇ字だなぁ、読めねーじゃねーか・よ、よせ、そんなとこさわるな、気持ちわるいなぁ、あ、また安田*4がするどい目で虚空をにらんでる!もしもし、え、まだ書いてない?あした入稿だよ、あんた判ってるの?少しは責任感じなさいよあんた・あ、あ、ねむいねむいねむい、ヒロポン打ってヒロポン!はい、どうしたの?原稿なくした?あっそう、え、なに原稿なくした?この野郎ぶんなぐるよ、しまいにははい、どうも毎度遅くなりまして、どうもあいすみません、よろしくお願いします、はいはいどうも・ふう、ねむいねむい、やっと終わったばーろー、このぉ、こんな汚ねえ色出しやがって、どんな機械使ってんのお宅?あ、ここんとこ指定と違うだろ、これ、直しとかないとぶんなぐるよ本当に・あ、ここも違うじゃねーか、しっかりやってくれよねワシラ道楽でJam作ってるんだから、仕事でやってんなら多少間違えたっていいけどね、なんたって道楽なんだから……

 

今後の秘密計画

これだけ中身の濃い雑誌が八号も続けば当然ネタがなくなる──と思ったら大間違い。いよいよ日本初のストーンド・マガジンに向かって大刷新をしていくつもりだ。企画としてはデボラ・ハリーをカバー・ガールにする。竹下景子の陰毛丸出し写真をやばい部分にすぐはがれるシールをはって出す。中央線沿線の一般書店売りを開始する。ロサンゼルスの書店にも置く。ロスの『WET』と特約をむすぶ──などが上がっている。

 

読者いろいろ

エルシー企画のジャム編集部で仕事をしていると、よく読者の人から電話がかかって来ます。

「ああ、あのあの、ぼぼく、あの見えてるやつが欲しいんですけど、いえあの、編集の人ですか、ええとあの……ガチャ」

「もしもし………………毛の見えるやつないですか………………修正してないやつ見たいんですけど………………ガチャ」

「あうあう、あう、あのうモデルの人とおまんこしたいんですけど……紹介してくれませんか……………おまんこおまんこガチャ」

「あ〜〜、あぁ、あああ〜〜、ガチャ」

だいたいこういうのがほとんどです。

あと通信販売でポルノを申し込んでくる人がたくさんいますので発送係の社員は大変です。中には一冊千円の本をいっぺんに一〇冊も申し込んでくる人がいます。

Jamの記事に興味を持っている人はたいてい編集部まで遊びに来てくれます。そういう時は忙しいのも忘れて話し込んでしまいますが、おしゃべりの中からアイデアが生まれることも多いのです。

『Jam』のファンに中央線沿線の人が多いのはなぜでしょうか。

今のところお手紙や電話の様子から見て、『Jam』という雑誌を誤解している人が多いようです。『Jam』は決して単にムチャクチャな雑誌ではないのです。

 

あなたにもできる簡単な『Jam』の作り方

①まず果物屋でイチゴを買ってきて砂糖を加え、すりつぶて煮つめます。

②新聞の記事をバラバラに切り離して放り投げ、適当に拾い集めて文章をつなぎ合わせます。

③今までに読んだ本の中で気に入っている文章を抜き書きします。

④写真集、雑誌などから気に入った写真を切り取ります。

⑤④の写真にできるだけ写真の内容と違う文章を考えて付けます。

⑥ポルノ雑誌の中からできるだけイヤラシい写真を選んで切り取ります。

⑦友達に話してあげたいような話や、面白い本の紹介、実際には存在しないレコードや映画の感想などを書いて情報ページを作ります。

⑧ゴミの回収日に人の家のゴミをあさって写真をとります。

⑨⑧で集めたゴミの中から出て来た手紙と、自分で作り上げた人様の手紙とを合わせて読者欄を作ります。

⑩自分が天皇になって読者へのメッセージを書きます。

⑪きのう見た夢を文章に書きなおします。

⑫もう一人の自分をつくって対談します。

⑬自分の性生活を告白します。

⑭『ガロ』という漫画雑誌の中から気に入ったものを選びます。

⑮編集後記と次回予告を書きます。

⑯それらを全部まとめ、一冊にとじ、表紙と裏表紙にクレヨンで絵を描きます。

⑰これらを大きめのナベに入れ、①でできたイチゴジャムを冷蔵庫から出して上からたっぷりかけます。

⑱紙にジャムが十分しみ込んだら火を付け、煮つめます。

⑲これでおいしいイチゴJamのできあがり。

※注意──あまり煮すぎますと、せっかく書いた字が読めなくなるので気をつけましょう。

 

X−LAND 天皇より宝島読者へ求愛のメッセージ

Jam創刊からもう7ヶ月が過ぎて、七〇年代も終わろうとしている。いよいよ世の中は放心状態の度合を強くしているみたい。手垢のついた愛という言葉、死んでしまったと思ったサイケデリックという言葉が今こそ甦る時じゃないかしら。

私はXランドの天皇。「わからない」ということと、「抱かれること」が大好きな、観念の子よ。今、大切なのは目醒めることだと思うの。起きてて見る夢のほうがずっと面白いと思わない?

もしJamを読んで私たちの宇宙にバイブレートできたら、お手紙をください。

〒170 東京都豊島区西池袋〇の〇の〇
日東ビル3F ジャム出版・経由
Xランド宮内庁

 

JICC出版局『宝島』1979年12月号所載

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★ジャムってロックの雑誌*5があるけどこれはまた別のジャム。頁をあけると女の陰部にジャムべっとりというカラー・グラビアがあったりする自動販売機雑誌なのだ。山口百恵家のゴミをあさって、使用済ナプキンとか、妹の二八点の歴史のテストを発掘したりして、一躍、勇名をはせた。

ところが、その正体は……というか、表紙とグラビアにはさまれた中味は、大パンク大会。表紙にオナニー&メディテーションなんてあるのもおかしい。編集後記を他の雑誌の編集者が書いたり、日本のパンク・バンドの写真がメチャクチャ入れ違っていたり(わざとやった嫌がらせか?)、とにかく筋金入りのパンク。音楽傾向もどパンクで、ディヴォとか、ペル・ユビュをサイケデリックの構造を盗用した姑息な連中とこきおろす文章ものっていて、ススんでる。

「JAM」ジャム出版 三〇〇円

(東京都豊島区西池袋〇・〇・〇 日東ビル3FB)

※1980年頃『宝島』に載った『Jam』の紹介文より

 

広告──吉祥寺マイナー

コンサート、イベント、舞踏、映写会、パーティー、個展、etc…50人規模の催事に最適。国鉄中央線(井の頭線吉祥寺駅1分。

店主のグチ

毎日苦情が殺到している。音量と振動の苦情、通路のゴミ、すいがら、空カン等….

ビル中からものすごい眼で見られてるんだぞ!

最近は1日に10回も廊下を掃く。

友禅、エジンバラ、ダービー、メロウハワイの皆様方、いつも大変御迷惑をおかけして申しわけありません。マイナーの佐藤という人は本当は生真面目で義理堅い人なんです。ただ気が小さいだけで悪気なんて全々無いのです。

またアンプがとんだ。スピーカー代4万円、ついこの間はシンバルが次々と割れていって計6万円、いったいだれが払うと思っているのでしょう。いつも知らない間に壊れてしまう。

電気代未納分80万円、ワァーッ!

佐藤氏の率るSighing・P・Orchestraは本当はパンクなんてだいっきらいっ!フリージャズの人、マイナーを使ってね。

80年9月28日にマイナーは突然ぶっつぶれませり。合掌。

 

解説──パンクマガジン『Jam』の神話

所収『Spectator』Vol.39(構成:赤田祐一

七九年の象徴的な出来事として、『Jam(ジャム)』という同年三月エルシー企画から出版された「伝説の自販機本」の創刊を取りあげたいと思います。

「自販機本」とは、アリス出版、エルシー企画、アップル社、土曜漫画等の出版社が出版していた成人向けの娯楽読み物雑誌、いわゆるエロ本のことです。「本」と書きましたが実態は中綴じの雑誌で、おおかたは六十四ページ前後、カラーグラビアには大股開きのきわどいヌードを載せ、女性の性体験告白記事あり、性の事件簿あり、官能小説ありと、バラエティに富んだ内容でした。(中略)

当時、エロメディアは、世の中に「不足」していました。ビニール本やアダルトビデオの登場するまで、エロ本は、一定分量エロ要素が載ってるというだけで、内容は問われることなく、大半が「つくれば売れた」のです。

「エロさえ載せておけば、何をやってもいい」ということでこの世界に入ってきた若い編集者たちは、インチキな「性告白記事」だけ載せるのではなく、思い切った画像表現(女性器の接写、ストーリー性のあるポルノ、レイアウトや製版上の実験など)、水準の高い活字表現(パロディ、ブラックジョーク、劇画・音楽などサブカルチャーの評論など)を載せはじめました。

そんな数ある自販機雑誌のなか、アバンギャルドなおもしろさ、きわどさで群を抜いていたのが『Jam』でした。

創刊号で山口百恵の家から出たゴミを漁ってきて誌面掲載して、大きな非難と反響を巻き起こしたことで「伝説の雑誌」とされていますが、実はこの雑誌の白眉は活字の部分でした。プロレス、神秘主義、フリーミュージックなど、異色の記事を載せていました。また、(これは当時も禁じられたことだったのですが)著作権くそくらえとばかりに、『Jam』は海外の雑誌などからおもしろそうな記事や写真をバンバン盗んできてページを構成していて、全く「やりたい放題」です。そんなことから当時、自動販売機の雑誌の世界でひそかにビッグバンが起きていたのではないかということを以前から常々考えていました。

もっともラディカルなものは、サブカルチャーの底辺から生まれるというのが、私の基本的な考えです。大手資本はブームを待ち、そのカルチャーを水増しして取り入れ、牙を抜いて、大量販売します。ただし『Jam』のおもしろさはおそらくメジャーには消費されないでしょうし、最後まで理解されないでしょう。なぜなら表現の根底に、跳ねあがりものたちの消そうとしても消せない「毒」と「抵抗精神」があるからです。

私は、過剰な除菌やデオドラントの健康志向は、生きものとして、衰微のあらわれではないかと考えています。少々の毒、もしくは異物をも受け入れられることが、人間および社会の健康の証ではないかという立場に立つ人間です。

社会の常識や良識は往々にして生きる力や自由を押さえつけようとし、独創的に生きようとする人たちをLINEから排除したり冷笑を浴びせたりするような傾向がありますが、これに対抗するにはある程度の「毒」と言う思想が不可欠ではないでしょうか。

*1:「Xランド独立記念版」は高杉弾隅田川乱一コンビが、商業出版として初めてこしらえた八ページ。内容は独立宣言、架空のヒットチャート、Xインタビュー、ロックアルバム紹介、小説など。『Xマガジン』~『Jam』の原型となりました。

*2:社長=明石賢生(あかし・けんせい)

出版界に数々の伝説を遺し、1996年急逝。金は持ってる者が払う」「金は出すが口は出さない」が信条の、とにかく太っ腹な経営者だったと伝えられています。なおカメラマンとしての名義は武蔵野大門を用いました。ちなみに高杉弾明石賢生が武蔵野大門名義で撮った接写ヌードに衝撃を受けてエルシー企画と関わりを持ちます。こうして生まれたのが『X-magazine』『Jam』『HEAVEN』でした。

逸話ですが、明石の右腕として活躍した謎の歌人にして編集局長のSこと佐山哲郎は、あのスタジオジブリ製作の長編アニメ映画コクリコ坂から』の原作者でもあります。佐山氏は70年代から官能小説から少女漫画の原作まで幅広い執筆活動を行っていましたが、生家が寺院だったことから本業は住職のお坊さんです。また日本初のロリコン同人誌を出した蛭児神建(ひるこがみ・けん)も過去に出家してお坊さんになっており、エルシー企画のライバル企業と目された、アリス出版の創業者である小向一實(こむかい・かずみ)は業界引退後、名の知られた備前焼陶芸家になりました。こう振れ幅が大きい異能たちが当時のエロ本界に一極集中していたのもまた、この業界が活気と才能と可能性に満ちあふれた“出版界の特異点だったということを再認識させられます。

なお明石賢生のインタビューが、白夜書房発行のスーパー変態マガジン『Billy』1982年2月号に掲載されており、こちらの記事は山崎春美スーパー変態インタビュー「ウンチでビルが建った!? 群雄社代表取締役 明石賢生」を参照してください。

*3:東京雑誌販売(=東雑)のこと。設立倒産年月日共に不詳。アリス出版およびエルシー企画の親会社的存在で自販機本の総元締めにあたる。実業家の中島規美敏が、おつまみ用の自販機を見て「ここにエロ本を入れたら儲かるのでは?」と閃き起業したとされています。

*4:安田邦也。エルシー企画→アリス出版→群雄社→VIP→アトラス21と明石賢生が関わった全ての会社を渡り歩いた唯一の編集者。太田出版発行のサブカルチャー雑誌『Quick Japan』15号にインタビューが掲載

*5:新興音楽出版社(現・シンコーミュージック・エンタテイメント)発行の音楽雑誌『ジャム』のこと。