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亀和田武『劇画アリス』+高取英『漫画エロジェニカ』+川本耕次『官能劇画』+迷宮'78編集部「座談会:三流劇画バトルロイヤル」(プレイガイドジャーナル 1978年8月号 特集・ぼくたちのまんが その3 君は三流劇画を見たか 迷宮'78編集)

君は三流劇画を見たか

迷宮'78編集


所載:雑誌『プレイガイドジャーナル』1978年8月号「特集・ぼくたちのまんが その3 君は三流劇画を見たか 迷宮'78編集」

青年まんがという言葉がある。この言葉はそれまで少年まんがのワクの中でしか発揮されていなかったまんがのエネルギーをすくい上げ、更に拡大した場所でそのエネルギーを解放するための言葉だった。けれども実際のところはそれが本来持っていた可能性をどんどんとり落し、社会の常識に自らを合わせてゆく過程を踏むことによってでしか定着してはいかなかった。そして確立したヒエラルキーの中で一流御三家(ビッグ・アクション・ヤンコミ)から二流劇画(ゴラク・週漫etc.)は全く沈潜し熱を無くしてしまっている。

毎週毎週ぼくらの前に送り届けられてくるのは、ベルトコンベヤーに乗っかった500円の定食でしかない。まんがを主食としてきたぼくらとしては、たとえ定食ではあれ食べてしまうのだけれど、いいかげん同じ味には飽き飽きしてしまうし、少女まんがの砂糖菓子やプリンアラモードの最初の新鮮さも薄れかかっている。

まんが総状況の沈滞のさなかに、エロという囲い込みのなかで各々の個を爆発させている三流劇画は、ぼくらの前に毎週送られてくる気の抜けたエンターティンメントよりは余程面白い。所詮三流とか、どうせエロまんがなんていう声も聞こえるけれど、ひと昔前はまんが総体が表現の世界での三流だったし、数年前までは少女まんがも三流のなかのそのまたゲットーだったことを思い出そう。読む読まないはそれぞれの勝手なのだけれど、エロだから読まないなんて偏見はそろそろ捨て去って、まんがはエロも描き得るのだし、それもまたぼくらのまんがだという認識を持ってもいい頃だろう。高宮成河

 

座談会三流劇画バトルロイヤル

選手紹介

亀和田武劇画アリス代表)〈亀〉

自動販売機でしか買えない雑誌の編集者。檸檬社にて『漫画大快楽』『漫画バンバン』の編集に参加、一時代を築く。その後アリス出版に移籍、毎号話題を呼ぶ表紙裏のアジテーションによって知られる。最近号では遂に本人の写真が登場、賛否両論を巻き起こし、名実ともに自動販売機の顔となっている。29才。

高取英(漫画エロジェニカ代表)〈取〉

この道に入って一年有余、『エロジェニカ』編集主任となって独自路線をとり、発行部数を飛躍的に伸ばす。同誌の“コーヒータイム”では少女マンガ論も書き一部マニアの注目を得る。最近、中島史雄に大阪に帰ってお見合いをした話を描かれてクサッており、名実ともに三流劇画の顔となっている。26才。

川本耕次(官能劇画代表)〈川〉

学生時代からの三流マニア、はずみがついて三流劇画の編集を業とするようになる。『官能劇画』の編集を半年やり、現在『Peke』という三流SF少年誌を発行するためにとびまわっている。三流劇画共斗会ギの中央執行委員。本人も劇画を描き、三流劇画の顔になりたがっている。

レフェリー 迷宮'78

葉月了〈葉〉=亜庭じゅん

相田洋〈相〉=米沢嘉博

高宮成河〈宮〉

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取:そいでさ、入ったときに今の先輩が教えてくれたワケ、うちは中年のオジサマ向けにつくるんだからとか、或いは肉体労働者のトラックの運ちゃん向けとか、そういう感じでネと云うワケよ。ところがねオレはさ、予備校時代に、女がいないときに予備校まで行かずにスタンドに行ってエロまんが読んでね、ワーとしてたワケ。そうすると全然ちがうワケよね、もともとぼくのまわりの編集者ってのは年齢層ももっと巾(はば)広くやってたんだけども、ぼくはこれはもう性の失業者である若い連中向けにやるんだって形で今みたいにやったら、それが何となくあたったってとこ。

川:それは要するにね編集者の方でもね、内容の良し悪しじゃないワケね、はっきり云って載せる規準がさ、この人は原稿オトシたことがないとか、そういうごくつまんない理由で選んじゃう。

亀:そう、要するにポリシーが無いのね。

川:雑誌をする上での編集方針がないワケ。

亀:これは売れるんじゃないかという形で編集者が持ってる規準ってのは実にアイマイでね。

川:要するに今まで築かれてきたものがその中心になってるから、たとえば表紙にみずいろ使って売れると、みずいろ出せば売れるといった......

全:ハハハ

川:いやだけどこれホントなんだよ。だってここんとこ『官能劇画』の表紙みんなピンクだもん。

葉:映画のタイトルでも、黄赤以外は使っちゃいけないってところがあるから。

取:『アリス』の表紙ってのは、筆者名もなければスタイルもない。一種の革命だな。

葉:編集長で売ってるみたいな...

取:あの表2がスゴイね、映画芸術の最後のページの板坂剛みたいで。

葉:で、読者対象としては若い層をねらうという。

宮:つまり今まで云われてきたような、ウチは工員さんやトラックの運ちゃん相手やからというところからもう一歩踏み出して……

取:いや、トラックの運ちゃんも工員さんもオジさまも、どんどんいるんだけども、十八から二五までに焦点を絞ってる。まあ要するにマスターベーションの素材になるようなもの、そういう形でやってる。だから予備校生あたりから、『エロジュニカ』読んでね、どれどれを読んで3回、どれどれを読んで4回って風に来ると、ああヤッタ!!って思うね。逆に云えばつまり性的に飢えててうまく女をひっかけることができない、そういう連中にとってね、エロ劇画ってのはマスターベーションやって欲望を沈静させることによって休制の安全弁になってる面と古びた秩序だった連中にとって眉をしかめさせるような形で体制に対して、バンとストレートになってくる面と、両刃の剣だと思うんだよ。そのへんがむずかしいワケ。

亀:まさにそれは両方あると思うんですよね。

取:それでね、一番やったと思うのはね、中学生が多分学校あたりへ持ってったんだろうな。40名くらいの規模でね、パパ、ママあたりから全く同じ文面でドサッと手紙が来た。

亀:それはありますな。全く同じ文面で来るんですよ。

取:ちゃんと裏に名前書いてあるんだよね。

川:あれは共産党が裏で糸引いてんだからね。

取:ああ、ホント!

全:なになに? それ

川:あのね、石子順石子順

葉:なに! あれ!

取:石子順って代々木なの?

川:あいつがね、裏でね、そういうやつを組織して、要するに子供のマンガをどうするとかさああいう感じで、そういうのをつくって俗悪まんが追放みたいな形でやるワケよ。かたっぱしから……。

宮:ホンマにやってるの?

川:やってるのかたっぱしから目についたやつね、要するに下書きがあるワケよ。おそらく石子あたりが書いてるんじゃないの。それを回してね、それを手書きで書いて、最後に自分の名前を書いて送るワケ。

相:不幸の手紙みたいだな。

宮:そうすると、サンプルみたいなもんはあるワケね、もはや。

川:だってサンプルがないと同じ文にはならないでしょ。それでね、『コミックギャング』にも一回来たんだ。

宮:『ギャング』に! 何がアカン云うとんのやろ。

川:何がいけないんだかどうかわかんない。多分劇画であることがいけないんだよ。何がいけないかっていうと要するにエロだとか何とかじゃなくて、漫画じゃそれほどさわがないのに何で劇画だけさわぐのかっていうと劇画であることがいけないの。

取:ただもう『少年マガジン』にしろ『少年ジャンプ』にしろエロ度ってのはすごいもんね、昔に比べれば。

川:ところがさ、『少年マガジン』では許されても劇画誌では許されないというのもあるワケ。たとえばいまウチ(みのり書房)で出してる『OUT』って雑誌でさ、オメコとオコメをとり違えたようなこの地球をどうするんだみたいなセリフがあったワケよ。それも30級か40級ぐらいのでっかい写植だったんだけど全然問題にならなかったワケ。劇画誌だったら呼ばれるよ。

亀:文学雑誌でオマンコと云っても、実話誌だったらいけないというのは実に屈辱的なんだけど。

川:だからそういう一見セックスを装ってる雑誌ってのは表現の上ですごい制約を受けてる。

葉:セックスを装うこと、それ自体が体制からいえばもうペケだから。

亀:そういうのに関連してね、漫画家と話してて頭にくるのはやっぱりね、最近ちょっと違ってきたんだけど、はくはやっぱり少年まんがを書きたいんだけどって云うんだよね。で、こいつは何てイヤな野郎なんだろうってね、そいつの品性を疑ってしまうってところがあるのね。

川:小多魔若史って知ってますか、そういうまんが家がいるんだけど、もと『ジャンプ』の専属でアシスタントやってたんだけど。

相:柳沢きみおのところかな。

川:ええ、それであまり安い専属料で縛られるのがイヤだってんでとびだして、いまエロまんがを描いてるんだけど、彼に会わせると逆なのが、オレはもう絶対に少年まんがは描かんぞ。もうエロマンガだけで生きてやるんだ、エロマンガだったら少年誌に描いてやってもいいけどそれ以外だったら描かないって。

亀:ああ、それは見識ですな。

取:ダーティ松本もね、百万積まれてもオレは『ビッグコミック』には描かない、そういうのが居るんだよ、やっぱり。

川:村祖(俊一)もそこまで言わなきゃダメだと思うけどね。

亀:だから、そういう、ホントに腰をおちつけてエロをやるってヤツが出てこないとダメだね。

取:あの村祖氏は弁護するけど彼は『ビッグコミック』にも描くし、『少年マガジン』にも描くし、『エロジェニカ』にも描く。そういうのもいなくちゃ。たいてい『ビッグコミック』に行っちゃうと描かないんだけど。

相:羽中ルイはどうですか。

取:あれは『漫画ジョー』の専属。

亀:あいつも、よく「ホントはぼく少年まんがが描きたい」と云ってたんだけど。でも、あいつのは、あいつのエロまんがからにじみ出てくるのがあってね。

取:羽中ルイってのは詩人なのね。高校の時に詩集を出して、今でも書いてる。それでね、彼の高校時代ってのがおもしろいのね。詩と暴力なの、ボクシング3年間やった、まさにけんかエレジーなの。新宿でヤーさんとやったこともあるし。で、その暴力のシーンにちょっと少女を出してさ、誌のポエジーを漂わせてグッと伸びたワケ。

亀:あいつは精神的にはホモなんだよね。檸檬社にいたときに遅くなって、駅がとなりの駅なのね。帰りがいっしょになったら、ボクの家に寄ってくださいっていうんだよ。で、歩きながらボクは昔ボクシングをやって右手だけで他の男を扱えますよみたいなことをね。

全:ギャハハハ

亀:ああイヤだなあって。

全:ハハハハ

亀:で、夜中歩いて、もうスグなのね、歩いて来ませんかとかね。何となくコワくてね。

取:だからその暴力性っての、アレがあったからさァ、ボクシング漫画描きませんかって云ったら、「あしたのジョー」の余韻がまだある。それが消えるころ、やってみたいって云ってたね。

亀:昔描いていたアレ、異常なね、正常なセックス一切やらなかった。どういうのかっていと、カッターナイフでふとももをパーッと切って、それをインサートするとか、それからあとね、女が2人でレズやってると、そこに突然怪人がやってきて、それがフンドシ一丁で、それが女の子に何かやるのかなって思うと、女の子の性器を握力でえぐり取って、これが悪いんだって叫んで読者の方に向って肉塊を投げつるのね

全:ギャハハハ

取:全裸描かないもんね。

宮:三流劇画ってのは不適応者の群れやな。

川:そうよ、その代表が清水おさむだけど。

亀:檸檬社にいたときに担当したけど、巻頭2色から始まるのね。リンゴを男が食べてるの、少女にむりやり浣腸して、バカバカバカッて出たやつを。それを茶色で描いてあってね、ああウンコがおいしいよ、おいしいよって食べてるの。それを見たオレの上の編集長が、「亀和田君、これはマズい。これは茶色で描いてあるからだ。白く直してくれ。そうすればオシッコに見えるかもしれない」って。

全:ギャハハハハ

川:確かに一種変質狂的なところはあるよ。だから飽きもせずああいう話ばっかし描けるワケでね。

宮:でもないと思うよ。ワリと醒めちゃってね、逆手にとっているところはかなりあるはずやけどね。

相:描いているうちに醒めてくる。

宮:三流劇画が面白いっていうのは、その逆手のとり方がおもしろいってのもかなりあるはず。で、ただ単に裸の女ばっかり出てきても、何ともないもんね。ぼくはどういうか読者としては、面白いマンガを読みたいだけやねんけども、少年まんがも面白いりゃいいと、少女まんがも三流劇画も、あれもこれも含めて全部ぼくらのまんがであると。
で、三流劇画としては、ぼくらのまんがという中で今後どんな風にがんばっていってくれるのかという、そこらへんを聞きたいワケ。

亀:ぼくらだってね、ヘタすると『ヤンコミ』になりかねないってところはあってね、そこらへんは、厳に戒めているんだけども。だからアレやりたいとか何かアレしたいと思っても、どうしてもあの『ヤンコミ』の読者ロビーに集中的に現れている傾向ってのは普段に出てくるんじゃないかって気がして、それで、あっちに行くんじゃなくてここで踏んばるってのはね、エロ劇画をエロ劇画たらしめるってことで、やっぱりそこで頑張ってるってことだね 

全 ………

相:高取さんは?

取:だから、あの結局、何ていうのかな、『ガロ』なんかはね30代40代の人向きねってのがね逆にあるの。で、ウチは川崎ゆきおを『ガロ』の更に『ガロ』的なホノボノシリーズで、それで『ビッグコミック』の村祖も使ってそれでボク、少女マンガ家にエロ描かせたいってのが願望でね。で、そのへんが全部バーと出てきたらもう『ビッグコミック』も『少年サンデー』もないんだって感じでね、そんな作家いないかなあ?

相:いないんじゃないんですか。

取:いや竹宮恵子だってスゴいよ。少女まんがでさァ、全裸を描いてる、チンポも描いてんだから、ああいう人も居るわな、確かに。

葉:でもあれは男見たってどうにもならない。

取:いや、あれは男が見るから興奮するの、

宮:わしゃ、なんじゃこんなもんちゅうて、はるけどね。

亀:この前ね、仲間と話したんだけど、ポルノグラフィというか、あの商品化してるね、そういうのってのは他の表現とは全く違ってね、こちらの方に芸術表現ってのがあってね、芸術表現ってのはどういうものかっていうと、かなりすぐれたものであると読者なりそれを見てる者が何ていうかな、無化されてゆくという風なね。ポルノグラフィっていうかそういうものは、自分自身をどんどん際立たせてしまう。いやが応でもいきり立ってしまうようなね。だから全然別のものなんだね、芸術表現と。―いつ聞いてもポルノも芸術だみたいなね、そこらへんが中途半減なのね。

宮:新人編集者としては。

川:全般的に見てこれから難しいんじゃないかって気がするんだけど。つまり作家なんだね。

宮:その作家の絶対数の不足みたいなもん。

亀:ありますね。羽中ルイなんかが出てからもう2年ぐらい。

川:だからエロが描けるというね。そういう人が少ないワケ。たとえば能条純一とか清水おさむとかね、一種際立って変な意味で面白いとか、あのへんはもうある程度わかって、もう先が見えた。それをあとから受けついでゆくという…...。

亀:だからそれをどういくかというと、ここに来て非常に意を強くするんだけど、要するに三流劇画で、エロ劇画誌でね、3つか4つ頑張ってるところがあると何とかなるんじゃないかっところがあるのね

川:あとそれとね、読者が居れば何とかなるという面もある。読者がいるとね、わりと作家もノリやすいでしょ。みんなが手さぐりで歩いてる状態のなかで作家にやれってのもムリだ、みたいな。

取:あのサ、飢えて劇画だ、みたいなヤツが今わりと落ってると思んだけどさ、名古屋かどこかで中卒だと思うけど、上役がおまえ何をアホなことやってるっていうと、イヤぼくはマンガ家になるんですみたいなね。で、、東京へ出てしまうと何かやっぱし食えるのね。

亀:みんなオレたちと同じ年代で家(ウチ)建てるんだよね。だから書いといて下さいよ、三流劇画も家が建ちますって。

川:いや三流劇画だから家が建つんだよ。一人で月に三百枚こなせるのは三流劇画しかないよ。

亀:あがた有為が家建てた、清水おさむが家建てた。

取:清水おさむはマンション。

亀:あっそう。

取:だから当時まだこんなにパッとなってなくてさ、みんな貧乏しながら描いててさ、でもちよっと新人が持ち込みに行けばね、ふっと大丈夫だみたいなね。みんな大学行くようになって自宅あたりで描いてて、でさ、成り上がってさ、化けてさ。そういうのって減ってきてるんだ。

亀:それでさ、ホント驚くんだけど実にまあみんな極貧のなかからアレしてるワケね。

取:だからハングリーハングリー

亀:オレと同じ世代なんだけれどものすごく多いのね、あがた有為もそうだし、飯田(耕一郎)くんの私生活なんてちょっとすごいのだからね、何なんだろうと思うんだけど、それでまたヘタな大学生なんかよりみんな実に教養があってね、あれはもうびっくりする。それで、飯田くんもそうだけれど、あがた有為なんてね市場かなんかで働きながらそれでもう夜フラーと疲れてね、ああオレはここで埋もれてゆくんだろうかなんてね。
取:清水おさむの場合はね、大金持ちの地主の息子であるという締めつけがイヤで家出したんだけどさ。

川:そういうスゴイ純情な人なんじゃないかという気がしたけど、それがこう、なんかイビツな人間になっているっていう、またこのへんがおもしろいんだけど。

亀:それから、アレ(本の雑誌)にも書いたんだけど、批評をもっと活性化しなくちゃいけない。

取:どうしてあの少女マンガを読んでる連中が、野郎、村上知彦

全:ハハハハ

葉:出てくるなァ。

宮:本気にようなり切らんところがあってね、いつも醒めてんねん。

取:川本三郎は劇画をやるけどもわかってないな。川本三郎はオレは悩んでるからね。川本三郎清水あきら、あの二人だね。

取:詩人はダメですよ。

亀:だからそれはホント『漫画主義』の連中にも限界感じちゃうのは、どうしたってその昔、美術青年たちというか、その人たちがジャズの批評をしてたときがあったでしょう。やっぱりあのジャズのそういうパワーと対応し得るような批評じゃなくてやっぱり美術青年としてしか語れないというようなところがあって、劇画のああいうのに見合う評論や方法がまだこうちゃんとできていないというところがあるね。そうするとやっぱり権藤晋高野慎三)とかあそこらへんの、まあ良心的な人なんだけどね、アレ見ても、「稚拙な線にこめられた真摯さに注目」とかね。

葉:そう、そんな風になっちゃう。

亀:セコイんだよね、こちらにしてみれば冗談じゃねえよってのがあってね、ああいうことしかできないっていうのは、やっぱり……

川:読んでないからじゃないかな。権藤晋に会ってね、話したんだけどぜんぜん三流劇画知らなかったよ。

亀:それからやっぱり、あれはね。あれは何か云っちゃ悪いけど頭悪いんじゃないかって。あれはつまり理論として構築するのを怠ってる、放棄してるんだよね。

葉:いままでのところ、いいとこ感覚だけで書いているみたいなとこあるからね。

川:要するに、石井隆しか語られないということがね、みたいな一番いけないと思うよ確かに石井隆ぐらいかもしれないけど、あれははっきり云って特殊な例だと思うから。

亀:しかしやっぱり天才ってのはスゴくって、つまり閉じた状況を打ち破るには20人の亜流が出てもしょうがなくって、天才によってそれが打ち破られるというのがあってね。石井隆一人が出てきたおかげでエロ劇画全部が変わっちゃったってのがあるでしょ。榊まさるが20人出てきたってああはならなかった。だからあれは石井隆一人でああなっちゃったということになるとやっぱりあと何年か天才を待つというね、アレもあるわけで、今から天才の出現を予想してそのための場ってのを確保していないといけないんだし、オレも割とチャランポランなんだけど、そこらへんはしっかりやろうと思ってる。しかし今ある劇画状況とね、それを取り巻く評論というのはちょっとひどいんじゃないか。

川:ま、現実問題として評論も含めてね、読者という存在が確立してないでしょ。いるのかいないかわかんない状況だもの。

亀:こういうところにでも来ない限り読者には会えない。

全:ギャハハハ

取:イヤ、あの、電話でデートってのをやったらバンバン来るんだよネ。

亀:そういうアレでもないと出てこないからね。例えば『大快楽』でもね、モデルのパンティプレゼントってやるでしょ。あれはいっぱい来るんだってね。それ以外の投書ってのは全然来ないしさ、たとえばよく読者欄とかやってるでしょ。あれが全部インチキなの。

取:うちは全部ホント、うちは人気投票で、一部マニアがドーっと来て、20通最低来んの、毎月ね。それで、今度大人のオモチャプレゼントやったら、マニアじゃないスケベー派がバッと。

全:ワハハ

取:そらもう、全然…。

川:でもまあ、『エロジェニカ』だけが例外で、後はほとんどインチキだ。名前見てりゃわかる。

亀:だからぼくは『大快楽』にいた時はせっせといつもお便り書いてた。

全:ホホー

亀:それで最終シメまぎわになると、おまえ半分書けよっていってね。

相:そういった意味じゃ、『エロジェニカ』ってのは、ある程度読者状況つくってるみたいなところが。

取:つくってる。だいたい読者にちよっと会いたいってのがあるからね、願望として。

相:いわゆる『ヤンコミ』読者ロビー……

取:いや、あんな頭でっかちのバカはねェ、あんまりいないわ。

亀:いや、アレは結局、『ヤンコミ』ってのは、確かにオレも買うとね、まっ先にまず石井隆の「天使のはらわた」と「読(ドク)ロ」を読んでしまうんだけどね。「読ロ」を読むたびにまたハラがたったりね、いやーな気持になったりね。

取:この前の読者にさ、『漫画マガジン』と『エロジュニカ』おもしろいって、ちょこっと書いてあってさ、ヒョッとしたらもうまずいのかもしれないって思いだしてね。

亀:そう云えば、清水おさむが二、三日前に会社に来た時に、あの人もアハハなんてやっててね、「エロジェニカにアリスのことが書いてありましたよ」って…

全:ワハハハ

宮:新しいものを作ろうと思ってね、それがまたそっちの方へミーハーが寄って来てね、それをまたダメにして、という状況はいつもある訳で、それをどうかいくぐっていくかが…。

亀:そうですね、確かに具体的な読者とね、こう会うっていのはもちろんすごいインパクトあるだろうし、つまるところはこちらでね、まちがっててもかまわないから、独断でもかまわないから、やっぱりポリシーを持って読者層を設定していくという以外には、結局は、最後に拠るべきところはないだろうって気がするんですけどね。どっちみちいろんなデータでちゃんと資料分析をもしやったとしてもそこから抜けおちてくる部分ってものすごくあるはずですね。こうなったら俺はこれでやってんだという以外は結局ないんじゃないかって気がするワケですね。

 


三流劇画作家 フォーカス・イン

伊集院乱丸

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ダーティ松本

『ハンター』『悦楽号』を中心に久保書店から「内の奴隷人形」「狂った微惑人形」の単行本がでている。「ダーティハリー」からとったペン・ネームのほかに、“劇画変態魔” “劇画屠殺人” “劇画淫殺魔”とも名のり、その名に恥じず男たちはピストルとペニスで暴力的に犯しまくり、女は快楽の遊具として徹底的に凌辱されつくされる。とくに、アヌス責め、サンドイッチ責めのすさまじさは、まさにスーパー・バイオレンスの世界だ。

 

清水おさむ

『アリス』『エロジェニカ』『コマンチ』などで活躍中。上下ともざわざわまつげのきつい眼の髪の長い女を主人公としたストーリィで、作品中一回は必ず、首がとび、胴がとび、内蔵がドバーッととびだす凄惨をきわめるシーンを描かずにはいられない作家。それも、見開きでみせる残酷シーンや愛液ダラダラシーンのド迫力でせまり狂う。また、淫靡や破滅にむかってつきすすんでいく女主人公のいさぎよいハゲシさがとにかくスゴイの一言。

 

村祖俊一

『エロジュニカ』『快楽セブン』のほか、〈鳴神俊〉のペン・ネームで『ビッグコミック』『少年マガジン』にも描く。エロ劇画特有の”きたなさ”がなく、犯される女やSMで責められる女は、つねにリンとした美しさをたたえている。とりわけ『エロジェニカ』の〈娼婦マリー〉のプライドの高さは、自分を軽蔑した女学生をヤク中にして売りとばすほど残酷。いわく「私の気も分るだろうさ。てめえのオマン●で客を取ってみりゃあ……」


あがた有為

『大快楽』『コマンチ』『アダムズ』『オリンピア』『アリス』と、いろいろなところに描きまくっているエロ劇画きっての売れっ子。女性も女学生、人妻、OLと多彩で、みなグラマーな肢体。話としては、強姦、SM、レズとなんでもあるが、とくに刺青ものが異色であり、また老人に犯されるといった話は、エロ劇画のなかでも珍しい。たぶん、男に犯されかかったら、さしたる抵抗もせずに体を開いてしまう従順さがウケてる理由だろう。

土屋慎吾

豊満な肉体をもてあました女学生や若妻が、中年のおじさんにネチネチいじめられ、しだいに発情していくというのがテーマで、そのいじめられ方がいかにも中年的で、恥ずかしいポーズをとらせたりしてジラすのが、ウケている。それに女の恥じらい含んだ悶えの描写がうまく、とくに半開きの唇、きつく閉じられた目というのが、なんともエロ劇画的で読者の欲情をさそう。『大快楽』の女体シリーズや『アリス』などで活躍中。

 

玄海つとむ

『大快楽』『アリス』などに描いている。その描写のボルテージもかなりだが、なによりストーリィやネームがしっかりしているのがよい。お得意のテーマは、継母いじめで、女として対等になった娘と養母が、口きたなくののしりあい、恨みあい、男をそそのかして犯しあうといった女同士のみにくいあらそいを繰り広げるといったもの。そして、眼のまわりの黒い女というのが、いかにも気が強く淫乱なふんいきで、テーマにピッタリ。

 

羽中ルイ

『ジョース』『コマンチ』『アリス』『大快楽』と多誌に描く売れっ子。女学生を主人公にしたものが専門。すっきりした線で描かれた女学生が、SEXをおそれつつも、しだいに欲しがっていくというストーリィだが、その反応のクールさが独特のリリシズムを出しており、官能詩人と呼ばれるゆえんとなっている。とりわけ得意なオナニーシーンやレズシーンの透明感は、少女の三白眼とあいまってきれいで淫靡なエロチシズムを感じさせる。


中島史雄

『エロジェニカ』中心だが、『スカット』『オリンピア』にも無く、かの『COM』出身で一時真崎守のアシスタントも経験。レモン・セックスと、いうだけあって少女ものであり、とくに美少女マヤと女教師とのレズビアンを扱った『紫瞬記』シリーズは、ほかのレズもののようなグチュグチュ・シーンがないだけ異彩を放つ。ゆがんだ少女の顔を妙になまめかしく描くことで、ロリータ・コンプレックス読者の劣情をもよおさせる

 

飯田耕一郎

『COM』などの編集人をへて、漫画家となる。『アリス』『大快楽』『官能時代』などのほかに〈耕一郎〉のペン・ネームでギャグをもこなす。おもに女の娘のひとりごとを中心にすすめられるストーリーは、特有のだるいムードをたたえており、ある意味で少女まんが的だ。迫力ある描写で読者をひきつける作家というよりも、ふんいきで酔わせる作家である。とにかく、味のある絶妙なタッチで描かれた少女がなんともカワユイ。


宮西計三

『アリス』『アダムズ』『ドッキリ号』『増刊ヤングコミック』で活躍。巻末の2色ページが多く、大胆な構図とフランス劇画調の洗練されたグロテスクな絵柄で、妖しく美しいファンタジィが素晴らしい。なかでも、眼、舌、汗、衣服のしわなどの気持ちわるいまでの描写のセンスは一見にあたいする。ホモ、女装願望、人形愛など。アブノーマルなテーマのものや、『夢想家ピッピュ』にみられるチャイルドポルノ的な作品がある。