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ねこぢるインタビュー「なんかシンクロしちゃってるのかな、とかたまに思ったりして」(文藝1996年冬季号)

ねこぢるインタビュー

「なんかシンクロしちゃってるのかな、とかたまに思ったりして」

 

──漫画を描きはじめたきっかけは、どういうことですか。

 

元々は旦那(山野一氏)が漫画家で、それを手伝いたいといつも言ってたんですけど、ちょっとそれは無理なんで、自分に合った話とか絵とかもアレンジしてくれるというのが描き始めたきっかけです。あと隣に猫を飼っている外人がいて、よく世話とか頼まれたりして、その猫の絵を描いたりしてて。いちばん最初に描いた『ねこぢるうどん』は、 私生活にかかわる変なことがあって、それで山野が思いついて描いてみろという感じで『ガロ』に載ったということです。 

 

──ペンネームも「ねこぢる」にしちゃったというのは。

 

最初「ねこぢるし」だったんですけど、自分も「ねこぢる」「ねこぢる」と言っているから、そのほうが覚えやすいし、言いやすいし、インパクトが残るかなと思って。

 

──話はどんなふうに思いつくんですか。

 

ケース・バイ・ケースですけど、自分の夢をちょっと入れたり、旦那が考えたり、二人で考えたり。ここはこうしたほうがいいとか、そんな感じでやっています。

 

──描いてみてから、編集の人に「この話はさすがにマズイんじゃないですか」というようなことを言われた経験はありますか。

 

"ちょっとどうかな?"というのでは、豚が丸焼きになっちゃうというのを描いて、それは「上に訊いてみないと」と。ふつうは、養豚とかはだめですし、死んじゃうとかいうのは、発行部数の多いところではだめです。完全に擬人化した豚とかなら大丈夫みたいですけど。

 

──ところで、根本敬さんみたいに、やっぱり実生活でも変なことって多いんですか?

 

前に、赤羽駅の渡り廊下で手を振っている男の人がいるんですよ。その時は私一人しかいなくて、振り返ってみても誰もいないのに、いつまでたってもずっと手を振ってる。あと、早朝にコンビニに行ってニ~三分で買物を終え、来た道を通ったら男の人がサイクリング自転車から下りて、下半身をあらわにしてウンコをしそうになってた(笑)、私が睨みつけてたら向こうはニヤニヤして、スカトロマニアなのかな、とか。コンビニはすぐだから、ジュースを1本買えばトイレなんか借りられますよね。それをわざわざ道でやってるわけですから。これは三回あります。

 

──路上排便を見ちゃった。

 

ええ。おばさんとかも。家の近くだったから、急いで帰って山野に教えたけれども、もうおばさんはいなくなっちゃって、自分でも嘘っぽいなと思って、わざわざ見に行ったらちゃんと現物があった(笑)。旦那にもよく言われるけど。やっぱり変な人を見る確率が高いと思う。

 

──特殊な人からアプローチされるということはありますか。よく浮浪者の人に話しかけられやすい人って、いるじゃないですか。

 

前に新宿で電車がとまって立ち往生しちゃった時に、アルプス広場で友達と待ってたら、浮浪者がだんだん近付いてきて、うわヤバイのが来ると思ってたら急に手をつかまれて「おれ、頭ばかなんだ」と、涎たらして鼻たれて。頭にきたから、すぐ警察のところへ行って。「手をつかまれた」と言ったら、「オラーッ」とかって首根っこをつかまれて浮浪者は連れて行かれました。

 

──「向こう側」からの触手というか、そういうものに反応する部分があるのかもしれないという認識は自分では嫌なんですよね。

 

なんかシンクロしちゃってるのかな、とかたまに思ったりして。

 

──夢のほうはどうですか?

 

私すごい変な夢ばっかり見て、これは今度書き下ろしで出す予定の本に描いたんですけど、いきなり自分がローマ時代の領主の娘で、父親が一人の男の奴隷と犬五〇〇匹を連れて二階の広間にこもっちゃったという話から始まる夢を見たり。

 

──ローマ時代に対してのベーシックな知識とか興味とか、そういうことがあったりするんですか。

 

ないんですけど(笑)。

 

──自分でもびっくりですね。そんな夢見て。

 

いつも変な夢ばっかり見てるから、慣れてます。

 

──「今度はローマか」という程度ですか。

 

そうですね(笑)。夢はかなり記憶してるんです。だいたいオールカラーで。旦那にもすごいと言われたんですけど、夢を起きてから忘れちゃう時がありますよね。でも、また何か月かたってから、その夢の続きを見たりすることがあるんですよ。

 

──それ、すごいですね。

 

一時期RPGが好きでよくやってたので、その影響で夢がテレビの画面と同じように見えたことがあります。実写とテレビ画面が混ざったような夢を交互に見たり。あと、そういえば夢が外に出てきちゃった時がありました。夜中に犬にかまれて手を振り払ったら、犬が布団の上にいて、すぐに泡のように消えていっちゃった。

 

『文藝』96年冬季号 河出書房新社