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「自殺されちゃった僕」刊行鼎談(吉永嘉明×山野一×根本敬)

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前回の記事では『自殺されちゃった僕』著者の吉永嘉明と、ねこぢるの元夫で特殊漫画家の山野一の対談をご覧いただいた。

今回は特殊漫画大統領の根本敬を交えた、吉永嘉明×山野一×根本敬の貴重な鼎談(DVD BURST 2005年2月号所載)をご覧いただく(それにしても根本さんがいるだけで鼎談の雰囲気も随分と変わった気がする。この鼎談自体が根本漫画と同じベクトルなのかもしれない…)

鼎談に入る前にまず3人のプロフィール。

吉永嘉明

1962年東京生まれ。明治大学文学部卒。バブル期に就職を迎え、出版界に入る。以来、ずっとフリーで雑誌・書籍の編集に従事。バブル末期には雑誌編集の傍ら就職情報誌や企業案内パンフレットなどを手がけ、「出版バブル」を体験する。海外取材雑誌『エキセントリック』編集部を経て、サブカルで勢いがあった頃の『別冊宝島』で編集・ライターをするようになる。95年~97年、雑誌形式のムック『危ない1号』(データハウス)の編集に従事。著書に『タイ〔極楽〕ガイド』『ハワイ〔極楽〕ガイド』(共に宝島社文庫)など、編・著書に『アダルトグッズ完全使用マニュアル』『危ない1号』(共にデータハウス)。『サイケデリック&トランス』(コアマガジン)など多数。現在、雑誌『BURST HIGH』にドラッグ&レイヴ小説を執筆。近年、編集より執筆の仕事に重きをおくようになる。

山野一

1961年福岡生まれ。立教大学文学部卒。四年次在学中に持ち込みを経て『ガロ』で漫画家デビュー。以後、各種エロ本などに漫画を執筆。キチ○イや障害者、差別、電波などを題材にした作風を得意とする。主著に『夢の島で逢いましょう』『四丁目の夕日』『貧困魔境伝ヒヤパカ』『混沌大陸パンゲア』『どぶさらい劇場』(共に青林堂)他多数。故・ねこぢるの夫でもあり、現在はねこぢるy名義でも活躍中。雑誌『BURST HIGH』に4ページのマンガ「火星波止場」を連載中(当時)。

根本敬

1958年東京生まれ。東洋大学文学部中国哲学科中退。『ガロ』1981年9月号「青春むせび泣き」にて漫画家デビュー。活動の場は多岐に渡り、かつての『平凡パンチ』から『月刊現代』、進研ゼミの学習誌からエロ本まで。自称・特殊漫画家。他にイラストレーション(しばしば便所の落書きと形容されるドギツク汚らしい)、文筆、映像、講演、装幀等、活動の場は多岐に渡る。主著に『生きる』『因果鉄道の旅』他多数。著者公式HP『因果鉄道の旅とマンガ

 

「自殺されちゃった僕」刊行鼎談

著者 吉永嘉明

×ねこぢるy 山野一

×特殊漫画家 根本敬

──妻、ねこぢる青山正明

身近な人間ばかり3人も「自殺」で失った

哀しみと怒りを綴った本「自殺されちゃった僕」。

その著者である吉永嘉明氏と、

ねこぢるの夫であり現在“ねこぢるy”として

漫画を描き続けている山野一氏、

それと2人の友人で、本に登場する人物達とも

親交のあった根本敬氏に集まってもらった。

本誌でしか読めない特別鼎談!

平沢端理●構成

2003年9月28日

妻、巽紗季が亡くなった。

2001年6月17日

僕の仕事仲間で編集者であり、たぶん日本一のドラッグライターだった青山正明さんが亡くなった。

1998年5月10日

僕と早紀の友人であり仕事仲間であった、熱狂的なファンをもつ異色の漫画家、ねこぢるが亡くなった。

共通しているのは、みんな僕のかけがえのない人間であったということ。

気むずかしいけれど、とても魅力的で、豊かな才能があったということ。

そして──。

自殺したということ。

(「自殺されちゃった僕」冒頭より)

明後日、電気が止まるんですよね……。

吉永 ……明後日、電気が止まるんですよね。寒くなってきましたから、電気止まると辛いなぁ……。今さもしい生活してますよ。人生で一番貧してます。

根本 四千万も貯金があった時代もあったのに(笑)。

吉永 二千万ですよ(苦笑)。まあ二千万なんて、うつ病でだらだらしてたら3年くらいでなくなりますよ。妻も稼ぎがなかったですからね、貯金を食いつぶす日々でした。いや、貯金がゼロっていうの本当にきびしいですね(苦笑)。

根本 今やマイナスですからね。

山野 僕らの仕事って、原稿料が入るのは半年後とかじゃないですか。さし当たってが困ちゃいますよね。

吉永 出版社も厳しいみたいで、印税率も下がってますし、この本の版元の飛鳥新社はまだ一応10%なんですけど……その飛鳥新社の編集の赤田さんとは、元々、他の企画の話をしていたんですよ。そんな時に妻が死んだんですね。それでめちゃくちゃな状態になってた時、赤田さんがわざわざ僕の家までみえて、「先に、この今起こったこと書いてみないか」と言われて……ちょっと考えたんですけど、他にもうやりようがないとも思いましたので、じゃあ書こうというのが、この本を書くことになった経緯です。内容については赤田さんから「率直に」ということでね。だから僕も率直に書いたんですけど、自分で見て……この本は非常に感情的な内容になってしまったかもしれないというのはありますね。

根本 奥さんが亡くなってから1年も経ってない今の状況だと、まだある程度感情的にはならざるを得ないでしょう。

吉永 もともと僕は分析的な文章が得意ではないですし、正直、まだ無理だなっていう部分はあったんで。じゃあ率直に感情の本にしちゃえ、ということで、こうなりました。その「率直に」という部分で、山野さんには「フルチンの文章だ」って言われたことがあるんですけど(笑)。僕としてはパンツくらいは履いてるつもりで、あと一息でフルチンになれるところを多少セーブはしたつもりです。とにかく、皆さんには率直であるということと、あと「楽天的だ」ということを言われますね。普段はあまり意識してないですけど、そう言われると確かに楽天的なのかもな、とは思いますね。

根本 それは元々吉永さんの中にある、どうしても拭いきれない感性ですよね。

吉永 神経質で打たれ弱いくせに、最後のところでどこか楽天的な部分があるんですよね。先のことをきちんとシュミレートして、憂うことがない。

根本 まあ、そういうことができる人っていう方が少ないですよ。

吉永 うちの奥さんはしてたんですよね。若い頃からきちっと理屈で考えて、この先どうなるという悲観的なビジョンをずいぶん見てたみたい。そういったものを考えていくと、どうしても悲観的にならざるを得ない気がするんですよ。だから僕は考えないんですけど、その辺が、人から見たら楽天的だと言われるみたいです。でもすごい先のことを今考えて悲観的になってもしょうがないんですよね。とりあえず明日の飯が食えないと。

根本 そうですね、やっぱり、まず電気が止まらないってことは大事ですよ(笑)。

吉永 ホントね(笑)。明後日止まっちゃうんですよ。この寒い季節に。

根本 切ないなぁ〜、切ないなぁ〜。そういう本気でどうしょうもないときは、暖かいお茶一杯だけでも染みるんだよね。

山野 お酒が飲めればワンカップでもありがたい(笑)。

吉永 悪い影響としては貧乏ならではのうつ状態が来て、気持ちがしみったれてきましたね。そういうしみったれた気持ちが、身に染みつかないといいなあとは思っているんですが……染みついちゃうとまずいんじゃないかなと。

根本 大丈夫大丈夫、染みつかないですよ。吉永さんは絶対それを利用して何かしらまた商売しようと思う性質だから(笑)。

山野 吉永さん、僕はちょっと貴族的なところがあるように見えますね(苦笑)。

根本 そうそう、それが端から見れば楽天性に見えるんだけど、その部分が、よく言えば「全身編集者」みたいなところだと思うんですよ。あぁ…僕、今必死で吉永さんを褒めよう、立てようとしてますね。

一同 (笑)。

根本 ともかく、奥さんが亡くなった後、「今立ち止まっちゃったら自分はダメになると思うんで、とにかく仕事しないといけないと思うんですよ」っていうのを会う度に強調してたんで、今すごくつらい状況にはあるけど、この人は最終的に大丈夫なんだろうなっていうのは感じたんですよね。それで結局、途中でやめないでとりあえずちゃんと本にしたっていうのはね、本当に偉いですよ。

山野 吉永さんはすでに出版社に通ってる企画がたくさんあるじゃないですか。だから当面のお金を凌ぐの大変でしょうけど、先にやるべきことがあるって今すごいいいことですよ。

吉永 ええ、先にやるべきことはある。その先にやるべきことに集中したいはしたいんですけど……。

根本 したいんだけど、明後日には電気が止まると(笑)。

吉永 6千円くらいあればいいんですよね。それで電気代払える(笑)。

根本 いや~、目先のお金っていうのは本当、引っ張られてみないと分からないですからねえ。

吉永 一回貯金残高ゼロになってみないと、ホントに分からないものですよねえ(笑)。

 

苦しんで書かなければ伝わらない、売れない

──本についてのお話も少し伺いたいんですが、書くことで、3人の自殺について自分の中でなにか結末をつけるといった部分があったんでしょうか?

吉永 途中で気がついたんですけど、書くことではなにも変わらないんですよね。それでもなぜ書くかというと、さっきも話したように、どこまで率直にできるかというのがありました。僕は分析的ではないですから、理屈ではなく感情表現でどこまで伝えられるかと。あとはまあ単純に生きるため食うためですよね。生きる為に書いたというとかっこいいですけど、それは食うために書いたともいえるわけで売れることを見出してより率直によりリアルにするために嫌ですけど、思い出したりして、赤田さんにも言われましたけど、苦しんで書かなかったら伝わらない売れないだから苦しんでくれと笑いを得るために苦しむのはやっぱり物書きなんじゃないかなと思います。

山野 僕もね、一昨年の2月くらいでしたか、吉永さんが書きはじめられるときに、「まだ早いんじゃないか」と言うことは言ったんですよ。5年くらい経って、はじめて整理がついてくるんじゃないかと。でも整理がついてからじゃ、今とは全然違う本になっているだろうから、今書いたからこそ、あの本が出来たという気がします。

根本 ジミヘンだってさ、あの短い生涯で一杯録音残してて、いくらジミヘンとはいえ、中にはどうしようもない演奏のもあるわけじゃないですか。でもその不調な状態の演奏でも、やっぱりそれはそれで胸を打つものがあるわけですよね。そういうことなんじゃないかと思いますよ。本気で、調子の悪い自分をあからさまに残しているわけだから。まあ、そういうのも含めて……吉永さんはなおかつ売ろう売ろうという計算が頭にあるんだから大丈夫ですよ。しかしある意味、今日のこの鼎談が、一番「売る」っていうことにつながらないかもしれませんね(笑)。

山野 ええ、つながりませんね(笑)。

 

──読者から反応は来たりしましたか?

吉永 ポツポツとハガキは来てました。反応が早かったのは、自殺未遂常習者の人が「本読みました。来週精神科に入院するんですけど、この本を持って行きます」みたいな内容のが主流で……女性ばかりでしたね。精神を病んだ人が多くて。今までにない特徴としては、感想の最後にみんな必ず「ありがとう」って書いてあることです。これは、僕が今まで作ってきた本にはなかった特徴ですね。

 

──単純にねこぢるさんや青山さんのファンだったから、読みましたっていう人もいましたか?

吉永 いましたよ。でも、ねこぢる絡みで読んだんだけど、ねこぢるについて書いてる部分よりも、妻について書いてる部分の方が入り込める、とだいたいそういう感想でした。やっぱり僕のテンションの差なんでしょうね。ねこぢるや青山さんのときもショックでしたけど、どうしても、一緒に暮らしてた人っていのは別次元のショックでしたから。ねこぢるや青山さんのところとは同じテンションで書けていないんですよね。そこがばれちゃってる。

 

──山野さんから見て、ねこぢるさんについて書かれている部分が、自分の持っているイメージと一致していたり違ったり、ということはありました?

山野 ねこぢると吉永さんは友達で、僕は夫であったんですけど、友人として仲良かった以上、僕の知らない会話もしてたはずですから。吉永さんがねこぢるをどう捉えていたか、というのが率直に書かれていたと思います。僕は吉永さんの奥さんとは何度かしかお会いしたことがなくて、そんなには知らなかったんですよ。だから、吉永さんから奥さんのことはもちろん聞いてましたけど、それを本で読んで再確認したというか……よりわかったというのがありました。青山さんとも僕はそんなに親しくなくて、何度かお会いして、家に遊びに来てくれたことがあった程度だったんですけど、吉永さんの本読んで「ああ、こうだったのか」とあとから分かった感じですね。

 

──ねこぢるさんは「右脳人間」だ、と吉永さんの本の中で触れられてましたけど、そのあたりは山野さんから見てどうだったんでしょうか?

山野 そうだと思いますよ。なんて言うのかな……直感みたいなもので生きてる、という感じはしました。

吉永 直感が異様に鋭いんですよ(苦笑)。ちょっと予言者のようなね、鋭いところが。

山野 そういえば、吉永さんは32歳で死ぬ、とか言ってたことがありましたね。僕はもう忘れてたんですけど、意外とその言葉がこたえてたんだな、というのがを本を読んでわかりました。

一同 (笑)。

吉永 だって、予言者みたいだと思ってた人にそう言われたら、ちょっと困りますよ。やっぱりどこか楽天的なもので、どれだけドラックをやっても、死ぬって思わなかったんですよ。本当に死にそうになって、これはいかんと救急車に乗るんですけど、やっぱり死をあまり覚悟しないで遊んでたから、ねこぢるに「32歳で死ぬ」って言われて、ちょっとドキッとしましたね。

根本 あ、……、今32歳って聞いてさ、昨日たまたまザ・フーのキッズ・アー・オールライトのDVD見てたんだけど、キース・ムーン楽天的にドラッグやって32歳で死んでたな、とふと思い出した(笑)。

吉永 僕はそれより10も年取ってるんだ(笑)。なんだかんだで結構長生きしてますねえ。

 

大麻よりやっぱり電気代ですよ。

──この本について、新聞でも取材を受けられたとか?

吉永 取材に来た新聞記者の人に「いろいろ率直に書いてて、ドラッグの方で捕まったりはしないんですか?」とか言われましたけど……やらない、持ってないから書くのであってね、現役だったら書けないですよ(笑)。知り合いのライターの人たちも本当はドラッグについて書きたいんだろうけど、現役だから書けないっていうのがみんなあって。僕はバースト・ハイとかで書いちゃってて、悪いなとも思うんですけど……書くにはやめるしかないですよ(笑)。現役じゃ書けないですよ。マークされるに決まってるじゃないですか?

 

──マークされてる気配はないんですか?

吉永 どうですかねえ。まあ、とりあえず僕、今尿検査受けても家宅捜査されてもなにも出ないので、そこは楽天的に行きたい(笑)。一番やめにくいと思ってた大麻は、お金がないことでやめられましたし。大麻よりやっぱり電気代ですよ。

一同 (爆笑)。

 

──戻りましたね。話が(笑)。

吉永 いや、こういうパブリックなところで「電気代が払えない」なんて話をしてるのはどうかと思うんですけどね(笑)。包み隠さず話をしてきたとはいえ

 

──では、ここを読んでくれとか、こういう人に読んで欲しいとか、ありましたらお願いします。

吉永 まあ……僕の電気代の話もありきで(笑)、本当に生きるのは大変ですけど、それでも生きようと思っているわけですよ。だから……まあ、「生きましょうよ」と。楽天的にでいいんですよ。まだ実家にいたりで、僕よりは経済的に追いつめられてない人が多いと思うんです。僕はわりとギリギリですけど、楽天的に行きますので、経済的に追いつめられてないんだったら、もうちょっと人生を楽しく生きたらいいんじゃないかと思います。やっぱり生きてる方が、なんかね……楽しい気がしますよ。だから楽しくない人に読んでもらいたいですね。それで「少し割り切るか」と思って欲しい。空前のベストセラーになった「完全自殺マニュアル」は「死んでもいい」という本でしたけど、僕の本は「生きましょう」という本で、正反対なんですよね。同じように売れてくれたらどんなにいいかと思うんですけど、もし同じだけベストセラーになったら、僕は……ドラッグで死にますね。

一同 (爆笑)。

 

──駄目じゃないですか(笑)。

吉永 それは止められないと思うんですよ。そこまで売り上げ手に入れちゃったら、止まらなくなって死にますよ。

根本 いや、でもそういうもんなんだ人間っていうのは(笑)。

吉永 勿論、売れて欲しいですけどねもそんなに売れないから大丈夫ですよ。あと自殺した3人の話が書いてあるわけですけど、背景にはレイヴカルチャー、ドラッグってものがあります。青山さんを除いては、そんなにドラッギーな人ではないですけど、筆者の僕自身の話として、そういう90年代の東京のドラックカルチャーってものがある程度読めると思います。みんな、レイヴ第一世代だからね。僕が倒れてねこぢるに助けられたりとか(笑)、僕が倒れてばっかりなんですけど、まあ、そういうことが書いてありますので、読んでみてください。

 

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