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「美少女」たちを主人公にしたロリコンブームは、いま同人マンガ誌の世界で大盛況だ。『レモンピープル」を筆頭に同人誌的な季・月刊誌、単行本が、かつての『ガロ』『COM』のような勢いなのだ。

「美少女」たちを主人公にしたロリコンブームは、いま同人マンガ誌の世界で大盛況だ。『レモンピープル』を筆頭に同人誌的な季・月刊誌、単行本が、かつての『ガロ』『COM』のような勢いなのだ。

米沢嘉博

所載『朝日ジャーナル1984年5月14日号

二年ほど前に話題になった「ロリコンブーム」が実は、マンガ・アニメ同人誌界に端を発していたととは、あまり知られていない。「ロリコン」といっても、じつは美少女をキーワードとする新しい感覚の少年マンガのことだった。SFアニメ、テレビ特撮物などに育てられた若い世代の描き手たちが、生み出したそれは、パロディ的であり、アニメ的であり、必ず、といっていいほど「美少女」が登場した。そういったものを、半ば冗談でくくったネーミングが「ロリコンマンガ」であったわけだ。

この同人誌界でのブームは、やがて「ロリコンマンガ誌」なる商業誌を生み出すことになる。いちはやく創刊されたのが久保書店の『レモンピープル』。一人か二人のプロ以外はすべて同人誌作家いう誌面づくりは、ファン雑誌的側面が強い新しい発表の場として歓迎されていった。もちろん「エロ」の部分が部数を支えていたことはまちがいない。

やがて『プチアップルパイ』(徳間書店)が同じようなスタイルで創刊され、『漫画ブリッコ』(白夜書房)も同様の路線に方針を変更する。新人が中心なので原稿料が安い、という面でのメリットがあったことも見逃せない。しかし、なんといっても、商業誌を成立させるだけの数のマニアがいたことが驚きだ。

昨年秋ごろからこれらの雑誌は部数を伸ばし始めていると聞く。海のものとも山のものともつかぬ無名の新人たちのマンガで理められた雑誌が、数万部という数で定着してしまったのだ。

こうなると似たような企画が次々と出てくるのは当然で、同人誌のマンガだけを集めた『美少女同人誌アンソロジー』(白夜書房)といった単行本が出たり、季刊ムック的な形で『マルガリータ』(笠倉出版)が創刊されたりした。そして、五月には、新雑誌『レモンコミック』も創刊される勢いなのだ。

これら「ロリコンマンガ誌」はかつてマンガマニア相手に出ていた『COM』、あるいは『ガロ』といった雑誌の今ふうの展開としてあるように思えてならない。

マンガは常に大部数のメジャー誌と少部数のマイナー出版の並列という形で続いてきた。つまり少年月刊誌と貸本単行本であり、マンガ週刊誌とマニア誌といった形でである。そうして、マイナーの部分は、用意された「未来」という意味をこれまで持ってきた。

ロリコンマンガまた、そういったものであるのかもしれない。確かに、描き手と読者の距離の近さという一点において、それらのマンガはもっとも先を走っている。

テクニック、ストーリー展開、構成力といった面ではベテランたちにかなわないものの、感性、ファッション性、といった部分ではまちがいなく勝っているのだ。それはマンガに身をさらす時に味わえる「心地良さ」を保証するものでもある。すでにこれらの雑誌からメジャー誌へ移行していった新人も多い。耽美的な世界を描く千之ナイフ、エロ度で人気の高いみやすのんき、それに大友克洋高野文子の中間にあるようなスタイルの藤原カムイなどがそうだ。(嘉)