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米沢嘉博「病気の人のためのマンガ考現学・第1回/ロリータコンプレックス」(みのり書房『月刊OUT』1980年12月号)

病気の人のためのマンガ考現学/第1回

ロリータコンプレックス

米沢嘉博

所載:みのり書房月刊OUT』1980年12月号 pp.96-97

さて、連載第一回目なので、このページの目論見を記しておくことにしよう。

同病相憐れむとか言って、病気の人にはなんとなく仲間を見つけだして安心したいという気持ちがある。ましてや、ちょっと変ったそれならなおさらのことだ。だが、そういった人達は孤立していることが多く、そのことがますます病気を進行させていく。そこで、この連載が人民を救うテキストとして役立つわけである。つまり、世の中の同じ病気を持つ人達に安心と勇気を与え、人生の指針を示し、さらには連帯を呼びかけるというありがたいものなのである。また、自らの内に巣食う病気を自己診断する為にも役立つだろう。まあ、世の中には進んで病気になりたい人もいるだろうから、そういった人にはガイドブックとして見てもらいたい。

なにはともあれ、ロリコンメカフェチ、SM、ホモ、ピグマリオニズム、コレクター、ディテール症候群……とその筆を進めていくことにする。では、まいる。

 

病気としてのロリコン

精神病理学の分野では、ペトフィリア(幼女嗜好症)と称され、三~十歳ぐらいの少女にしか性的興味を覚えない人を一種の精神病として把える。昨今流行語のロリコンもこの一変種だが、その語源はウラジミール・ナボコフの『ロリータ』というベストセラー小説からきている。ハンバード・ハンバートという中年インテリ男が十三歳の少女ロリータに熱愛を寄せ、狂っていくという内容だが、あのスタンリー・キューブリックが映画化したことで一般的になった。精神病理学的には、正常な女性と正常な交際が出来ない場合に、性的でない「少女」に目を向けるという道をたどるという。普通には、ロリコン少女愛好者に投げかけられる悪口であり、賛辞である。が、少女を愛した数学者ルイス・キャロルの様に、もっと下の年令にいくと「アリス趣味」と言われ、少々危そうな徴候を見せ始める。ハイジコンプレックス―ハイコンの他、ベビコン、ラナコン、マユコン、ヒルダコン......もちろんマイコンとかトウコンとかいうのは少し違うのだけれども、なにやら様々なロリコンのバリエーションが不気味にマンエンしつつあるのだ。

 

ロリコンマンエンマンガ界

さて、この恐しい病気であるロリコンなるものを媒介するものとして、新しい宿主、マンガが今注目されている。

少女マンガ、ことにA子たんなぞのオトメチックラブコメを男共が見ると言われ始めた頃に気がつけばよかったのだ。あるいは、江口寿史の『すすめ!パイレーツ!!』や、鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』の女の子がかわいいと評判になった頃に注意しておけばよかったのだ。

いやいや、金井たつおの『いずみちゃんグラフィティ』のパンチラや、柳沢きみおの『翔んだカップル』など、少女がやたら出始めた頃に大事をとっておけばよかったのだ

だが、もう遅い。吾妻ひでおがもてはやされ、高橋留美子の『うる星やつら』が大人気で、細野不二彦の『さすがの猿飛』が面白く、鳥山明の『Dr.スランプ』のあられちゃんが大評判という「今」となっては、もはや手遅れかもしれない

高橋葉介の『宵暗通りのブン』や、藤子不二雄の『エスパー魔美』等も、それに力を貸している。中島史雄村祖俊一内山亜紀(野口正之)等所謂三流劇画のテクニシャン達の単行本が売れ、『リトルプリテンダー』『小さな妖精』等々の少女写真集はレジの横に積み上げられる。今や世界はロリコンで一杯だ!!

 

ロリコンの為のマンガ入門

で、ロリコンで何が悪いか!と言われれば別に何処が悪いわけでもなく、マンガの中のカワユイ少女を喜ぶのは、男共にとって当り前なのだ。少女そのものになって少女マンガを楽しむよりはずっとマットウなんである。

が、しかし、病歴が少しづつあなたを犯しつつあるのだよ。

第一期症状―マンガの中にカワユイ少女がやたら気になり始め、そういったマンガばかりを追いかけるようになる。おとめちっくラブコメやら月光、高橋葉介吾妻ひでお高橋留美子等が好みとなる。

第二期症状―はっきりと自分の趣味をロリコンであると自覚を始め、前記のマンガを好む以上に現実の少女達を気にするようになる。自動販売機で『少女アリス』(毎月6日発売)を捜し求め、『リトルプリテンダー』や『12歳の神話』等の写真集を集め、さらにひろこグレース等のポスターを盗み始める。

第三期症状―さらに病気は進み、同好の士を集めてロリータ趣味の同人誌を出したり、少女について語りあったりするようになる。ビデオにその手のCFを集め、少女を求めて色々なものに手を出す。例えばリカちゃん人形やジュニア小説だ。少女以外目に入らずに全て少女に結びつけて考え、行動するようになる。

それでも構わないという人達の為にロリコン(?)マンガ、あるいはロリコンを刺激するマンガ作品をあげておくことにしよう。

弓月光──『エリート狂走曲』『ボクの初体験』etc..….強い少女とマゾ的少年のドタバタ。男共ファンが多いのもうなづける。美少女度B。

高橋留美子──うる星やつら』『ダストスパート』……美少女乱舞のSFコメディ。人気急上昇中で美少女度C。

中島史雄──『幼女と少女がもんちっち』……所謂エロ劇画系の作家だがこの作品と『もんしろちょうちょのパンツ屋さん』は秀作だ。美少女度B。

内山亜紀(野口正之)──『気ままな妖精』……全編これロリコンの為のロリコンエロ劇画。その妄想大系は第三期症状をこえている。美少女度A。

吾妻ひでお──『みだれモコ』『オリンポスのポロン』『純文学シリーズ』etc……ロリコンマニアのアイドル。何も言うことなく、美少女度A。

この他に、ヒルダファンでアリスマニアの和田慎二、少女マンガのちばてつや川崎苑子の『りんご日記』等々沢山あるが、じゅりン子チエは趣味の問題となるだろう。マンガ同人誌『シベール』はコミケットなぞで見かけたら買っておくこと。汚染度90%である。

こういった宿主を経てロリコン菌は広がっていく。その感染経路は未だ明らかではないが、撲滅は遠いと思われる。それから逃れるには南極にでも逃げるしかなさそうだ。

まあ、そういうわけで、病気の人も、病気になりたい人も、それなりに頑張ってほしい。ただ趣味のロリコンと病気のロリコンは基本的に違うものであることは理解しておいた方がいいだろう。今や病気もファッションの時代だからだ。だが、少年が少女を愛することはまったく正しいというところで今回は終り。

次回はディテールにこだわりながらメカフェティシズムを扱かってメカに淫してみることになる。

では、病気にかからず元気ですごしてもらいたい。ごめん。