オタク・サブカル大放談(4)
オタク最大のタブーに追る
オタクセックスとは?
もてない、ロリコン、二次元コンプレックス……。
こと異性関係についてはオタクはあまりいいイメージがない。
彼らはセックスに何を求めているのか?
今まであえて語らなかったオタクの謎がいま明らかに!
(構成・宇井洋)
オタクはなぜロリコンなのか?
アクロス―今回はオタクとセックスというテーマですが、まずは岡田さんに買ってきてもらったオタク向けのエッチ本から話を始めましようか。
岡田―エロ本を大きく分けると、実写と漫画と小説になるけど、最近増えているのがオタク向けロリコン小説だよね。たとえばエロ小説で有名なフランス書院とかリンガー文庫が出しているんだけど、俺は日本で出ているオタク向けエロ小説の4分の1は目を通しているね。
竹熊―好きなんですか(笑)。
岡田―メディアを通したセックスって好きなんですよ
竹熊―オタク向けエロ本としては、『レモンピープル』なんかが一番の老舗ですよね。
岡田―老舗だけど、人気は落ちてますね。いま元気がいいのは『E-LOGIN』。ログインを出しているアスキーがアスペクトという別会社から出しているエロゲー(エッチなゲーム)本です。だって、パソコンゲームをやっている人のほとんどはエロゲーでしょ。日本のPC98を支えているのはエロゲーしかない。
竹熊―もともと岡田さん自身がエロゲーで大儲けした人ですよね。
岡田―そう。でも竹熊さんだって、80年代に『漫画ブリッコ』というロリコン雑誌でライターをやっていたんですよね。
(大塚英志が手がけた白夜書房の『漫画ブリッコ』は「おたく」という言葉の初出となった美少女まんが誌として知られている)
竹熊―あれは当時仕事の場がそこしかなかったということで。あの頃はみんなそうだったんですよ。たまたま書ける場があそこだった。だから俺自身にロリコン趣味というのはあんまりなかったですよね。ただ周りがみんなそんなのばっかりだったし、ロリコン・ブームが立ち上がってきた過程は間近で見てはいますけど。
岡田―思想としてのロリコンでしょ。実は女の子なんてどうでもよくて、ロリコンという思想がかっこいいんだという。なんかある種すさんでるとは言わないけど、ひねくれてますよね。あの時代はロリコンの写真集はあまり売れなかったですしね。
竹熊―僕が高校1年か2年の時に沢渡翔の『少女アリス』という写真集が出たんですよ。まあ少女だけど割れ目が写ってるんでびっくりしたわけだよね。あれは俺も買っちゃったもん。僕らの世代のロリコンマニアの人は大体『少女アリス』でショツクを受けている。
じゃ、そこから俺がロリコンにいったかというと、あまり行かなかった。ただ周りはあれがきっかけでその道に入って行ったね。ファーストインパクトはとにかく『少女アリス』っていう写真集なんですよ。これは聞違いないと思う。
それ以前は好事家の間でしかロリコンはなかったから。ほんとのアンダーグラウンド。それがあれで一気にオーバーグラウンドに出た。
岡田―その後に中年の女性カメラマンの清岡虹子(ママ)とかも出たよね。彼女の『プチトマト』っていう写真集があるんだけど、12巻でワンセットになっていて、この間古本屋で唐沢さんが見たら1万7千円て書いてあるんですよ。うわーと思ってよく見たら、1冊1万7千円だったらしいんですよ。
竹熊―あれは好事家の間ではもう伝説ですよね。ただ俺は別に汚い写真だなと思っただけだけど。
岡田―彼女が死んでから古書価格が上がったんだ、これが。
竹熊―とにかく70年代後半、アニメブームの直前くらいに『少女アリス』が出たのかな。で、アニメブームが起こったと。それで今度はセル画マニアとかが出てきた。それはだいたい77~78年頃からですよね。
で、79年くらいにアリス出版から『劇画アリス』っていうエロ雑誌が出たんだよね。そこで、吾妻ひでおがディープでシュールなエロチックギャグマンガみたいのを始めたんですよ。これがすごいオタクの間で評判だったわけ。
かわいい手塚治虫的な絵柄であられもないことやらせるっていうのが、わりとショックだったわけでしょ。日本のロリコン史において、これがセカンドインパクトなんじゃない。その頃にロリコンの同人誌がコミケに出始めたんだよね。アニパロが始まったのとわりと連動している。
アニメブームがまずあって、アニメブームの中でハイジとか赤毛のアンという清純派アニメを犯したいっていう欲求が当然出てくるよね。マニアの間では、それを素直に描けるのが同人誌っていう媒体だったわけ。あの辺が出始めたのは、やっぱり80年前後だと思うんですけどね。
岡田―最後の一線を越えたと言われているのが、ひろもりしのぶ(現みやすのんき)のラナを犯すマンガ。それまでどんなアニメファンの工ロパロを描くやつでも宮崎駿には手がつけられなかった。
竹熊―神聖で犯さざるべきもの。
岡田―ところがラナちゃんとかクラリス(2人とも宮崎アニメのヒロイン)とかをやりまくるというものをひろもりしのぶがやって。それを見た奴がこいつは鬼畜だと思って、それでブレイクしてですね。以降、みんななんでもありになっちゃった。
竹熊―82~83年頃なんだよね。ひろもりしのぶがそういうことでブレイクしたのが。まあ、当時はへたくそなマンガ家だったけど。
岡田―ただオタクはロリコンと言うけど、スタイルなんだよね。外ではロリコンぶってるけど、家へ帰るとほとんどはまともだよ。だからかって学生運動やっていた人達がサークルで集まってるときはマルクスとかエンゲルスとか読んだりしてなくちやいけなくて、家に帰ると少年マガジン読むのと同じように、外ではロリコンぶってる。そこは、普通の人たちとは逆なんですよ。
外では一般人として、家に帰ると女の子の写真集っていうのじゃなくて、サークルの部屋にはロリコン本があるんだけども、家に帰るとそんなのつまんないっていう。だから、宮崎勤事件が起こったときに、僕の周りでびっくりしたのが、ほんとに幼女好きな奴がこの世の中にいたのかっていうこと。てっきれあれはスタイルだと思ってたら本気にしてるやつがいたと。
竹熊―まあ好事家的な趣味というか現実は現実、趣味は趣味ってことでやってるやつらが大部分でしたよ、岡田さんの言うようにね。最初はおそらく単純にズリネタっていうか。とにかく幼女だったらあそこ写してもいいっていうことがわかったわけだよね。毛が生える前は大丈夫だっていうさ。
岡田―俺が大阪でアニメの会社をやっているとき、スタッフたちとロリコンマンガとか読んで騒いでたんだよね。その中にひとりだけホンモノが混じってたんですよ。30歳くらいで、「僕もそういう写真を撮ってんですよ」とかいって。そうするとみんな引くでしょ(笑)。いっせいに引いて、ワー本物が来たって。
なんか戦争ごっこしてるとこにほんものの軍人さんが来たみたいになって。あの瞬間、自分たちがロリコンじゃなくてファッションだったことが分かりましたね。
竹熊―まあファッションの奴らが増えると中には勘違いして本物も出てくるっていうことですよね。それに、ホンモノっていうのはファッションに関係なく人口の何パーセン卜かはいると思うんだよね。
オタクは自分に酔えない?
竹熊―異性に対する関係性のとらえ方の分かれ目ということで言えば、思春期のある時点でマンガアニメに行くか、音楽に行くかっていう大きな転機があると思うんですよ。そこでオタクが発生するか、オシャレ野郎が発生するか。
岡田―俺の表現ですが、「男らしいやつ」になるか、「見た目だけを気にする大バカ者」になるかの違いですよ。
竹熊―だいたいギターもってバンド組んだら、やっぱリギター持つのにはまる格好っていうのがあるわけじゃないですか。いまだったらギターじゃなくてDJかもしんないけどさ。そうすると、やっぱりそれに応じてファッションもそれなりにキメたいと。
岡田―それに、オタクは酒飲まないでしょ。それと共通してると思うんですけど、オタクってどうも酔うことが不得意なんですよ。お酒にも、自己にも。
竹熊―あ、それはけっこうある。俺も最近はビール1、2杯飲むけど、酔っ払うまで飲まないもん。
岡田―基本的にファッションとか、音楽に行ける人って、酔える人なんですよ、自分に。自分とか自分の表現とかに。
竹熊―ああ、それはけっこう重要な指摘かもしんない。
岡田―これは前からずーっと思ってたんですけど、酔えないのがオタクなんですよ。だから基本的に冷めてる。クールなところがあるんですよ。オタクというのは世界把握力とか認識力を高める方向にいっちゃって、へりくつオジサンになっていく。
竹熊―へりくつに酔うってことはあるかもしんないけど(笑)。つまり我を忘れた状態を人に見られるのが恥ずかしいとかね。だから僕も寝顔を見られるのもイヤですもんね。
岡田―あとその快感がわからないっていうのもありますよね。
竹熊―セックスしたときに俺はマヌケな顔してんだろうなとか思ったら、それだけで冷めちゃうみたいな。セックスっていうのもある種自己没入の世界じゃない。そうするとちょっとそういうマヌケな顔見られるのは恥ずかしいみたいなところがあるのかもしんない。オタクの心理として。
岡田―俺が思うに、重度のオタクはオナニーもできないんじゃないですか。
竹熊―ああ、いますかね。
岡田―多分いると思いますよ。だってあれもなんだかんだ言っても、刺激だけではいけないわけですよね。なにか想像しなくちゃいけないでしょ。
これができないやつって意外といるんじゃないのかな。ただ、こういうことを言っても、陶酔型の人にはわかんない考え方なんだと思うんですよね。女の子との関係においても、「でも、女にもてるじゃん」という一般の人の理屈に当てはめたときに、オタクは「じゃあなんで女の子が必要なんですか」となる。
やってることが女相手のセックスなのか、女相手のオナニーなのか、右手相手のオナニーなのか。右手相手のオナニーだけでありましょうと、基本的に頭の中にあるのは幻想でありましょうと。幻想だから女なんか好きになれるのであって。これは俺の持論なんだけど、素で見たら女ぐらいブサイクな生き物はいない。
竹熊―だから踊る阿呆に見る阿呆ってあるけど、オタクって見る阿呆でしょ。
で、踊る阿呆をちよっとばかにしながら、踊る阿呆の踊ってるバカぶりを見て楽しむわけでしょ。でも、その我を忘れる楽しさを知ってる踊る阿呆からすると、オタクってのはなんて寂しいやつらなんだっていうふうに見るわけだよね。ここでもう壁ができちゃうわけですよ。
俺なんかもディスコに行ってもダメだったもんね。やっぱり友達でデイスコ行こうよとか言ってさ、行くけどどう振る舞っていいんだかわかんなかった。
岡田―酔えないわけですね。ここ数年間でオタクが唯一酔える方法を見つけたのはカラオケですよ。
竹熊―普通の客がいるカラオケはだめだったんだよね。陶酔してる自分を見られたくないから。だから、カラオケボックスができたっていうのはデカいかもな。
岡田―でも、俺はカラオケすらだめなんですよ。自分の興味ないことに全然付き合えないたちじゃないですか。だからいっさい行けないんです。
竹熊―でもそれはわかるところあるな。岡田さんほど冷めていないかもしんないけど、やっばり俺もそうだよな。
岡田―オタクは風俗もあんまり行かないですからね。
竹熊―行かないですね。
岡田―風俗も行かない、女の子ともつきあわない、それで童貞の人もけっこういる。そうすると、やっぱり処理するというとオナニーになるんでしょうけども。そこらへんはまだ完全に言葉になっていない最大のタブーの一つですよね。
竹熊―やっぱり自分自身がまな板にのつてくるから。正直言うと、同じオタクとはいえ、他の人はどうかっていうとちょっとわかんない。一般化できるのかなっていうね。
岡田―典型的な男ばかりのサークルだと、性の話題は偏差値が低いとして排除されるから、他人の性はわからない。
竹熊―百歩譲ってセンズリの話題は出るかもしれないけど(笑)。
岡田―オタクはお金が趣味にいっちゃうから、女の子ともつきあえるわけないよね。
所載:パルコ出版『アクロス』1996年9月号