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檸檬社の倒産と三流劇画ブームの終焉(COMIC BOX 1982年11・12月合併号)

フロント・ニュース②

檸檬社の倒産と三流劇画ブームの終焉

北新宿Y男

「我々は三流エロ劇画界のあしたのジョーである」と宣言した『劇画アリス』、高取英が編集長をしていた『エロジェニカ』の二誌と共に『御三家』と呼ばれた『大快楽』の檸檬社が倒産してしまった。明日はどっちだ?

▲大快楽最終号 ひとえに残念です

エロ劇画ブームから5年

「78年は、まさにわがエロ劇画陣営にとっては、〈エロ劇画・元年〉とてもいうべき大飛躍の一年だった。」と、亀和田武がブチあげてから三年余り、エロ劇画状況は、いかなる様相を呈しているであろうか?

ひとことで言ってしまうと、それは沈滞である。

ビニ本、ウラ本などの他のエロメディアのブーム、『ヤングジャンプ』にはじまる新しいタイプの青年劇画誌の登場、紙代等の値上げによる定価の引き上げなどが、エロ劇画誌の売上げをニブらせる要因としてはたらいたようだ。

思えば、『エロトピア』(ベストセラーズKK、ワニの本のKKベストセラーズの関連別会社)が、エロ劇画専門誌として、つまり、青年劇画誌の中にエロが掲載されているというのではなく、エロを始めっから看板に掲げて売り出し、数十万部を売ったというあたりから、エロ劇画ブームは始まった。それに、石井隆の一連の作品に対する一般的な評価の高まりがあった。

『エロトピア』のあとを追って出たいわゆる三流泡末劇画誌グループのうちの何誌かは、新人作家の積極的な起用などによって、エロ劇画における作品性の再確認というところではたらいていた。それから、三流劇画御三家抗争というとても面白いオマケまでついて、エロ劇画状況は今までになく活性化していたわけだったが……。

老舗、檸檬社倒産す

そんな中で、エロ劇画界、というよりも広い意味でのエロ本業界の老舗である檸檬社が倒産した。

檸檬社は、いま述べたエロ劇画、三流劇画ブームの中では、非常に重要な位置を占めていた。三流劇画の御三家といわれた、もっとも活のいいエロ劇画三誌、『大快楽』『エロジェニカ』『劇画アリス』のうち、『大快楽』の版元としてがんばっていたのである。ブームを先行した二誌、劇画誌として初めて発禁処分を受けた『エロジェニカ』、自販機本ながら安定した独自の購読層を築いた『劇画アリス』を追いながら、79年に入って、ひさうちみちお平口広美宮西計三など次々に新しい作家を投入していったあたりは迫力があった。作家全集号などもまめに作り、ひさうちみちおの『仮面の告白』などは幻のコレクターズ・アイテムと今ではなっている。

劇画誌だけではない雑誌

ところで、この檸檬社という出版社、三流劇画誌ばかりを作っていたというのではない。それどころか戦後のカストリ誌のドサクサ時代から、ずうっと一貫してエロのみを扱ってきたという、まことに由緒正しきエロ出版社なのだといわれている。この手の出版社としては、他に『あまとりあ』を出していたあまとりあ社というのがあって、そっちの方が有名だが、まあ、この2社に比べればセルフ出版(白夜書房)など、まだヨチヨチ歩きと、いうところである。

ではこの檸檬社、いままでどのようなものを出してきたか?その中で一等光るのは、『風俗奇譚』と『黒の手帖』の二誌だろう。

文献資料刊行会(?)として出した『風俗奇譚』は、一種のSM雑誌で、きわめてマニアックなエロスを追求していた。今日のようにどこの書店の店頭にもSM誌がズラリと並んでいる時代とは違うのである。『風俗奇譚』は、後に『SMファンタジア』と名前を変えたり、つい最近になっては復刊と称し、『漫画快楽王』増刊、『オール読切』増刊という形で出ていたが内容はほとんど変わってしまっていたようだ。

黒の手帖』の方は、天声出版の『血と薔薇』と『話の特集』の中間みたいな感じの本で、ブラックユーモア、ドラッグカルチャー、サディズムなど、まとまった特集で読ませていた。ライターも、今ながめてみると割と豪華で、白石かず、伊東守男マッド・アマノ三木卓須永朝彦、谷川晃一、植草甚一石子順造平岡正明荒木経惟別役実中田耕治など、かなりバラエティにとんでいたし、イラストの方では、杉浦茂を復活させ、鴨沢祐二、吉田光彦をデビューさせている他、赤瀬川原平佐伯俊男、宮トオル中村宏などが描いている。うすっぺらな本ながら、古本屋さんでは、必ず千円単位の値がついているという代物である。

 こういう、マニアックで奇妙な本を作るという体質は、不思議にも『エロジェニカ』を出していた海潮社、『劇画アリス』を出していたアリス出版にも共通していて、海潮社の方は、唐十郎編集の『月下の一群』はじめ、それこそ数えきれないくらい妙な雑誌を作っていたし、アリス出版の方も、『少女アリス』はじめ一味違ったエロ本作りには定評があって、今でも『モニカ』という、普通の肉体労働者のオッサンが買ったら、怒って引きちぎりそーな、とてもエロ本とはいえないエロ自販機本を秘かに出しているのだ(是非御一読を!)。

というようなわけで、エロ劇画界、ひいてはマンガ界全般に、インパクトを与えた三流劇画のムーブメントは、この檸檬社の倒産によって、ほぼ完全に終焉したといわざるをえない。しかしそれは、観方を変えれば、三流劇画ムーブメントというひとつのパワーが、機能をはたし終えたということでもあるのかも知れないが……。

ともかく、またひとつ、奇妙な魅力のある出版社が消えたことを残念に思う。状況はなおキビシイ。

 

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