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檸檬社の倒産と三流劇画ブームの終焉
北新宿Y男
「我々は三流エロ劇画界のあしたのジョーである」と宣言した『劇画アリス』、高取英が編集長をしていた『エロジェニカ』の二誌と共に『御三家』と呼ばれた『大快楽』の檸檬社が倒産してしまった。明日はどっちだ?
▲大快楽最終号 ひとえに残念です
エロ劇画ブームから5年
「78年は、まさにわがエロ劇画陣営にとっては、〈エロ劇画・元年〉とてもいうべき大飛躍の一年だった。」と、亀和田武がブチあげてから三年余り、エロ劇画状況は、いかなる様相を呈しているであろうか?
ひとことで言ってしまうと、それは沈滞である。
ビニ本、ウラ本などの他のエロメディアのブーム、『ヤングジャンプ』にはじまる新しいタイプの青年劇画誌の登場、紙代等の値上げによる定価の引き上げなどが、エロ劇画誌の売上げをニブらせる要因としてはたらいたようだ。
思えば、『エロトピア』(ベストセラーズKK、ワニの本のKKベストセラーズの関連別会社)が、エロ劇画専門誌として、つまり、青年劇画誌の中にエロが掲載されているというのではなく、エロを始めっから看板に掲げて売り出し、数十万部を売ったというあたりから、エロ劇画ブームは始まった。それに、石井隆の一連の作品に対する一般的な評価の高まりがあった。
『エロトピア』のあとを追って出たいわゆる三流泡末劇画誌グループのうちの何誌かは、新人作家の積極的な起用などによって、エロ劇画における作品性の再確認というところではたらいていた。それから、三流劇画御三家抗争というとても面白いオマケまでついて、エロ劇画状況は今までになく活性化していたわけだったが……。
老舗、檸檬社倒産す
そんな中で、エロ劇画界、というよりも広い意味でのエロ本業界の老舗である檸檬社が倒産した。
檸檬社は、いま述べたエロ劇画、三流劇画ブームの中では、非常に重要な位置を占めていた。三流劇画の御三家といわれた、もっとも活のいいエロ劇画三誌、『大快楽』『エロジェニカ』『劇画アリス』のうち、『大快楽』の版元としてがんばっていたのである。ブームを先行した二誌、劇画誌として初めて発禁処分を受けた『エロジェニカ』、自販機本ながら安定した独自の購読層を築いた『劇画アリス』を追いながら、79年に入って、ひさうちみちお、平口広美、宮西計三など次々に新しい作家を投入していったあたりは迫力があった。作家全集号などもまめに作り、ひさうちみちおの『仮面の告白』などは幻のコレクターズ・アイテムと今ではなっている。
劇画誌だけではない雑誌
ところで、この檸檬社という出版社、三流劇画誌ばかりを作っていたというのではない。それどころか戦後のカストリ誌のドサクサ時代から、ずうっと一貫してエロのみを扱ってきたという、まことに由緒正しきエロ出版社なのだといわれている。この手の出版社としては、他に『あまとりあ』を出していたあまとりあ社というのがあって、そっちの方が有名だが、まあ、この2社に比べればセルフ出版(白夜書房)など、まだヨチヨチ歩きと、いうところである。
ではこの檸檬社、いままでどのようなものを出してきたか?その中で一等光るのは、『風俗奇譚』と『黒の手帖』の二誌だろう。
文献資料刊行会(?)として出した『風俗奇譚』は、一種のSM雑誌で、きわめてマニアックなエロスを追求していた。今日のようにどこの書店の店頭にもSM誌がズラリと並んでいる時代とは違うのである。『風俗奇譚』は、後に『SMファンタジア』と名前を変えたり、つい最近になっては復刊と称し、『漫画快楽王』増刊、『オール読切』増刊という形で出ていたが内容はほとんど変わってしまっていたようだ。
『黒の手帖』の方は、天声出版の『血と薔薇』と『話の特集』の中間みたいな感じの本で、ブラックユーモア、ドラッグカルチャー、サディズムなど、まとまった特集で読ませていた。ライターも、今ながめてみると割と豪華で、白石かず、伊東守男、マッド・アマノ、三木卓、須永朝彦、谷川晃一、植草甚一、石子順造、平岡正明、荒木経惟、別役実、中田耕治など、かなりバラエティにとんでいたし、イラストの方では、杉浦茂を復活させ、鴨沢祐二、吉田光彦をデビューさせている他、赤瀬川原平、佐伯俊男、宮トオル、中村宏などが描いている。うすっぺらな本ながら、古本屋さんでは、必ず千円単位の値がついているという代物である。
新人時代の鈴木いづみも載ってた
— まんがゴリラ (@manga_gorilla) 2021年1月6日
本当にこの時代の檸檬社の雑誌は編集のセンスがいいよな
トップパンチが75年まで続き、その後大快楽が出てくる流れは三流劇画、、というかサブカルチャーの変遷を示す一つの資料として興味深いし、これからも追っていきたいと思う pic.twitter.com/4UtIR0zG6V
こういう、マニアックで奇妙な本を作るという体質は、不思議にも『エロジェニカ』を出していた海潮社、『劇画アリス』を出していたアリス出版にも共通していて、海潮社の方は、唐十郎編集の『月下の一群』はじめ、それこそ数えきれないくらい妙な雑誌を作っていたし、アリス出版の方も、『少女アリス』はじめ一味違ったエロ本作りには定評があって、今でも『モニカ』という、普通の肉体労働者のオッサンが買ったら、怒って引きちぎりそーな、とてもエロ本とはいえないエロ自販機本を秘かに出しているのだ(是非御一読を!)。
というようなわけで、エロ劇画界、ひいてはマンガ界全般に、インパクトを与えた三流劇画のムーブメントは、この檸檬社の倒産によって、ほぼ完全に終焉したといわざるをえない。しかしそれは、観方を変えれば、三流劇画ムーブメントというひとつのパワーが、機能をはたし終えたということでもあるのかも知れないが……。
ともかく、またひとつ、奇妙な魅力のある出版社が消えたことを残念に思う。状況はなおキビシイ。
アングラ、退廃文化から始まり日本のサブカルチャーの地下水脈的な存在として、その果たした役割は大きいと思うんですよね。関係者がご存命のうちに檸檬社全史はマジで作って貰いたいですよ。
— まんがゴリラ (@manga_gorilla) 2020年10月18日
<過去あさり収穫その3>
— 五藤加純 図書館Zで配信中! 一族本椿 二人でロリコメ ネコ通信社45周年 (@QCE68MksMv6LSSi) 2021年5月2日
コミックボックス1982年11・12月合併号/檸檬社の倒産に関する記事、こんな所にもイラスト描いていたのか。これも忘れてた。
このときの特集が宮崎駿先生、ご一緒してたとはおそれ多い。#エアコミケ3 #五藤加純 #漫画大快楽
図書館Z様https://t.co/LiAEUVhRKf pic.twitter.com/9HRvtNlp9Q
先生の仕事場に積まれていた、大量の「ロリコン・ロック」を運んでくれたのが、元檸檬社の社員でもあった、中森愛先生。先生も、この機にマンガ家に転身した。
— 稀見理都@「エロマンガ表現史」発売中! (@kimirito) 2020年10月18日
内山亜紀先生は、債権者集会に行きたくはなかったが、たくさんマンガ家が集まると聞いて、ミーハー理由で参加した楽しかった思い出w
もしあのまま漫画大快楽が続いていたら、私は今頃、檸檬社の編集長いや、社長になっているに違いない。
— 中森愛・ネコ通信社 一族本・椿 二人でロリコメばかり描いていた (@aichan_nakamori) 2020年3月26日
単行本印税払ってください。
— 谷口敬 (@taniguti_kei) 2020年3月26日
残念! 時効でございます。
— 中森愛・ネコ通信社 一族本・椿 二人でロリコメばかり描いていた (@aichan_nakamori) 2020年3月26日
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描きおろしマンガ
丸尾末広(『ガロ』は再録でもうちは描きおろし! 単行本あっというまに売り切れで、2冊目も近々出るという時の作家! 注目!!)、ひさうちみちお、吾妻ひでお、夏目房之介、沢祐二(イラスト)