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単行本第2弾を出版した青山正明インタビュー「本作りは芸、編集者もモノ書きも芸人ですよ」

単行本第2弾を出版した青山正明インタビュー

本作りは芸、編集者もモノ書きも芸人ですよ

(取材・文/靍師一彦)

 

元『危ない1号』の編集人・青山正明が、ドラッグマニアのバイブル『危ない薬』に次ぐ、2冊目の単行本を出版。同時に過去の仕事と訣別し、新たなステップへと進む決意をした。ドラッグ、ロリータ、アダルトグッズ…数々の危ない本のヒット作を手がけてきた青山正明は、なぜ過去を捨て去ったのか? そして、今後、彼はどこに行くのか?

僕が青山正明という人物の存在を知ったのは、5~6年前だと思う。ある飲み会の席に、かつて青山さんを中心に結成していた編集プロダクション東京公司の関係者が同席していて、その彼が言うのだった。

「編集者であんなに文章が書ける人って、見たことないですよ」

それから1年ほど経過した95年。編集人・青山正明の『危ない1号』が出版されて話題になったが、僕は『危ない1号』そのものにはあまり関心がなかった。僕が青山正明のおぼろげな輪郭を知るきっかけになったのは、『クイック・ジャパン』5号(95年12月発行)。テクノ特集を組んだ『クイック・ジャパン』誌上で、青山さんは石野卓球と対談をしていて、テクノとドラッグと踊りの関係について持論を明晰にかつ熱く語っていた。髪がボサボサで無精ヒゲ伸ばし放題、「8時間くらい起きている」と語る青山さんのトロンとした目が印象的な写真が掲載されていた(やっぱりドラッグ決めてんだよね?)。


実物の青山さんに初めて対面したのは97年の夏。僕が『週刊SPA!伝説』という単行本をデータハウスから出版することになり(いろいろあって、出版は頓挫中)、その窓口になってくれたのが当時データハウスの社員編集者だった青山さんだった。初対面の青山さんは、腰が低い常識人、危ない本を作っている人というイメージとのギャップを強く感じた。

そして、今年の9月。「青山正明全仕事」をまとめた『危ない1号』第4巻が出版された。青山さんが82年から95年にかけていくつかの雑誌に書き続けた「フレッシュ・ベーパー」(肉新聞)というコラムの抜粋・再録がメインで(200ページ強)、それに精神世界や大脳生理学関係のブックガイド、最新ドラッグ事情、おすすめ音源360タイトルなとの書き下ろしが30ページ。強要するに、ドラッグマニアのバイブル『危ない薬』に次ぐ、青山正明の単行本第2弾なのだった。

と、まあ、青山さんについて知ったふうなことを書いているが、『危ない1号』第4巻に目を通す時点で、青山さんに関する僕の予備知識はほぼゼロの状態、大学時代に『突然変異』というミニコミ誌を作り、それがバカ売れしてマスコミに注目され、学生時代から商業誌にガンガン文章を書きまくっていたという青山さんに関する基礎知識ももちろん持ち合わせていなかった。

でも、青山正明が14年間にわたって書きつづったコラムのエッセンスに、僕はグイグイ引き込まれた。なるほど、編集能力があり、かつこれほど文章力に長けた人材はそうそういないだろうなと思う。本書の内容については、実際に読んでもらうのが手っ取り早いので、これ以上言及はしません。で、僕が特に注目したのは「おわりに」に青山さんが書いている、以下の文章。

《この本を過去の自分に捧げるとともに、無へと葬り去り (“危ない”ことはもう飽きちゃったんで、『危ない28号』にお任せってことネ)、今後は、小説、思想書、ワークショップ他、全身全霊を投じて精神世界の開拓・普及に過進することを誓って、終わりの言葉としたいと思います》

今後、青山さんはどこに行っちゃうのだろうか? それを聞きたくて、青山さんに会ってみた。

 

「危ないものはエスカレートする…先が見えちゃったんです」

待ち合わせ場所は、渋谷センター街の「ルノアール」。「センター街のルノアール」を、どうゆうわけか「千駄ヶ谷ルノアール」と聞き間違え、待ち合わせの時間に10分ほど遅れた間抜けな僕に、青山さんは開口一番こう言った。

実は今日も朝まで工場で働いていたんですよ

取材依頼の電話をした時にもちょっと聞いていたことなんだけど、現在、青山さんは某パン製造工場で週3回の夜勤勤務をしている。夕方6時から朝5時まで勤務して、ギャラは1万円ちょっと…。

ともかく、まずは、本題。『危ない1号』という雑誌は青山さんにとって、どうゆう存在だったのか。

『危ない薬』という単行本が当たり、データハウスの社長の信頼を得て、好きなものを作ってみろということになったんです。僕の原点は学生時代に作ったミニコミ誌『突然変異』だったから、その夢よもう一度という思いが強かったですね。それまで、ドラッグ、ロリータ、タイ、アダルトグッズといろいろやってきたけど、そういうのをベースにしてかつ売れる商業誌を作りたかったんです

『危ない1号』第1巻は刷りを重ね、現在、16刷り。10万部を越えるヒットを記録した。にもかかわらず、『危ない1号』第3巻を編集中に、青山さんがリタイア。いったい、なにがあったんだ。

先が見えちゃったんです。危ないものは、よりエスカレートしていくんですよ。僕の中には越えてはいけないある線があったんですが、危ないものを作り続けると犯罪幇助になりかねないネタに行き着ちゃう。それと、危ないことをやり続けるには、僕の年齢的な限界を感じましたね。だから、3巻目で方向転換をはかろうとしたんです。ドラッグと密接な関係にある精神世界路線と危ない路線を融合して、4巻目から精神世界寄りに変換するつもりだった。で、ワークショップ情報を載せようとしたら、取材拒否されて。ドラッグの記事が載っているような本には、協力はできないという理由ですね。それで、鬱になり出社しなくなって、結局は会社を辞めたんです

せっかく成功した器があったのだから、ある程度は危ない路線を継続しつつ、その余力で精神世界の本を作ることも十分可能だったはずだけど。

それができなかった自分が嫌になって、会社を辞めたんですよ。これからは精神世界をやりたいという明確な方向性を持ちつつ、社員編集者としては会社の売りである危ない路線を踏襲していかなければならない。そんな立場が耐えられなかった

このあたりは、青山さんの本作りのスタンスに関わってくる問題なのだと思う。

自分が興味のあることしか、やってこなかったですから。しかも、完璧じゃないと気がすまない。共同作業をする場合でも、自分が最初にコンセプトを考えて、90%の出来に仕上がらないと納得できないんですよ。だから、入稿が遅れに遅れて、会社や一緒に働いているスタッフに迷惑をかけてしまう。小さい頃からですけど、本に対するこだわりや愛着が強いからでしょうね

 

「中学生でも理解できる文章を書く僕の鉄則ですね」

『危ない1号』第4巻「青山止明全仕事」に関しても、100%満足しているわけではないみたいだ。

本当はタイトルを“プレッシュ・ペーパー”にして、著者・青山正明というスタイルで出したかったんですよ。でも、データハウスの社長のアドバイスもあって、四六版ではなく『危ない1号』のシリーズとして出すことにしたんです。“全仕事”というタイトルを、他にもいろいろ仕事をしているので事実と反するんだけど、カチっとくるコピーなのでOKを出したんです

それにしても、文章、上手すぎ。青山正明、22歳当時の文章を読んでも、嫉妬を感じるぐらい上手い。これって、なんなのさ。

学生時代から商業誌で書いていたので、文章修業はかなりしてきたつもりです。中学生が読んでも理解できる文章を書くというのが、僕の鉄則ですね。書きたいことが伝わらないと意味がないから。それと本作りは芸、編集者もモノ書きも芸人ですよ

で、今後、青山さんがライフワークにしたいという精神世界のことなんだけど、青山さんによればキーワードは「リズム&イメージ」。そのさわりをものすごく簡単に説明してもらうと…。

人間が生きていく上でリズムが大切なんです。早寝早起きと言ってしまえば、それまでなんですが(笑)。イメージは人間にしかない能力で、医学の進歩とはイメージだと思うんです。例えば胃潰瘍という病気の場合、こうすれば治るという理屈を医学によって詳しく知り、それをイメージすることが重要なんです

この「リズム&イメージ」に仏教用語の「知情意」の「意」をプラスしたものが、青山さんの思想の核になる。

知は知識、情は感情、意は意志。知識を蓄え、感情的にも納得した上で、意志の力でイメージすることがポイントですね

 

「新幹線? いや金がないから、バスで」

う~ん、難しいこと考えてるよな。しかし、人間、まずは食っていくことが先決。目下、某パン製造工場での夜勤勤務が主な収入源だ。

ベルトコンベアの流れ作業ですよ。初めてやる作業でも、誰も悠長に教えてくれないし、モタモタしていると怒鳴られる。バナナの皮むきでも1本ずつ剥いてたらダメ。房ごと持って最低でも一気に3本剥かなきゃいけない。いろいろな世界を知らないといい小説は書けないから、経験としてはおもしろいですけどね

図抜けた才能があるんだから、出版界で日々の糧を稼ごうとは思わないのかな?

今まで好きなことだけをやってきて、その結果ロリータとかドラッグとかマイナー色がつきすぎちゃったなと反省してるんですよ。本音を言えば記者とかゴーストとかやりながら食いぶちを稼いで、2~3年に1冊ぐらい書きたいモノを出版する、そうゆうスタンスがベストですね。今、その方法を模索中なんです

でっかいバッグを持って、渋谷の雑踏の中に消える青山さん。これから、奥さんの実家がある福島に行くという。

新幹線? いや金がないから、バスで

金かあ…。オレも、人ごとじゃないんだよね。現状のままだと、預金通帳の残高が今年いっぱいで0になるはず。すでに妻に食べさせてもらっいる身分でもある。そういわけで、僕も食べていく方法を模索中。コンビニでバイト、かな?

 

青山正明全仕事」をまとめた『危ない1号』第4巻

表紙写真の女の子は、青山さんが自ら撮影したタイのミドルティーン売春婦。アルカイック・スマイルを連想させる笑顔がイケてる! データハウス●本体価格1400円

あおやま・まさあき

1960年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應大学法学部法律学科卒。ゴーストライターとしての著書は4冊。青山名義の著書は『危ない薬』(データハウス)、今はなき編集プロダクション東京公司の仕事を含め、編著に『別冊宝島 気持ちいい薬』『別冊宝島 薬のウラがわかる本』『別冊WT タイ読本』『別冊WT ハワイ読本』(以上、宝島社)、『アダルトグッズ完全使用マニュアル』『危ない1号』第1巻・第2巻(以上、データハウス)等がある。


月刊ツルシ 1999年(平成11年)12月号 0027号

編集人●靍師一彦『週刊SPA!』元編集長