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ゲス、クズ、ダメ人間の現人神『危ない1号』編集長の青山正明氏に聞く!「この世に真実などない。だから、何をやっても許される」

ゲス、クズ、ダメ人間の現人神『危ない1号』編集長の青山正明氏に聞く!

この世に真実などない。だから、何をやっても許される

一度解放されてしまった抑圧はもう元には戻せない。
セックスもドラッグも全部やり尽くして「世の中、面白いことなんかないじゃん」とか言ってる子供達にまだこんなに面白い事があるんだよっていうのを提示して行きたい。読者と一緒に試行錯誤しながら。(青山談)

初出…『世紀末倶楽部』第2巻(1996年9月発行)

▶アングラ雑誌『サバト』に掲載された若き日の青山正明氏の勇姿

 

面白いと思ったテーマを追求していく鬼畜系雑誌『危ない1号』

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本文でさんざん語られている総合鬼畜系雑誌がこれだ。タイトルに偽りなく、ドラッグからフリークス、死体を始めとして、編集長の青山正明が面白いと思ったテーマを、あくまでも分かりやすく、そして面白く紹介して行く。しかしその奥には、抑圧され続ける現代人へのオープンマインドの思想が秘められた必読のシリーズだ。

 

『危ない1号』のプロトタイプ『突然変異』

椎名誠からケンカを売られた青山正明が慶応在学中に創刊させた同人誌。

ロリータ、障害者、寄生虫から皇室、オナニーに至るまで幅広く扱う『危ない1号』のプロトタイプ。82年に椎名誠朝日新聞の書評欄で「障害者を笑い者にするとはけしからん」と酷評。それに対し青山氏は椎名氏に果たし状を送り、上野動物園のキリンの檻の前で待ったが、相手が現れず不戦勝となる。

『突然変異』1~4号

発行・慶応大学ジャーナリズム研究会→突然変異社

 

青山正明氏がプロデュースした代表的な特殊出版物

いずれも青山氏の代表的書籍。『危ない薬』は、少年少女のための正しいドラッグ入門書、あるいはドラッグ百科事典として一部好き者に熱狂的な支持を受けている一冊。現在でも入手可能なベストセラー。超変態世紀末虐待史とサブタイトルされた『サバト』は、魔女狩りから呪術、妖怪、フリークス、死体、スカトロ、幼児マニア、果ては獣姦、切腹など、次から次にアブノーマルな世界が飛び出して来る超カルトエロ本。丸尾末広秋田昌美日野日出志蛭児神建高杉弾などの個性派が登場。先日古本屋で三万円で売られていたが安すぎるので四万置いて来たと言う人もいる。右端の『フィリアック』はスカトロを中心に露出、ロリータ、少年愛などの変態情報満載。マスはかけぬがレベルの高い高尚なエロ本。

 

あくまでも下種で下世話なテイストが大切だ

秘かに、しかし、着実に各方面から注目を集めている。『危ない1号』と言う、タイトルだけじゃなく内容もかなりアブナイ雑誌がある。今回は、自ら「鬼畜系」を名乗り、鬼畜仲間を募って「鬼畜ナイト」なるイベントまで開いてしまった。『危ない1号』の大編集長にして鬼畜系文化の先鋒に立つ男・青山正明氏に果敢にも直撃インタビューを試みてしまった。

本誌/まず『危ない1号』の企画意図みたいなところからお聞きしたいのですが、かなり密度の濃い内容でありながら、すごくわかりやすく出来てるなと言うのが、私がまず最初に感じた印象だったのですが、やはり、そのあたりはだいぶ意識されましたか。

青山/そうですね。せっかく面白いテーマを扱ってるのにペヨトル工房の本や『スタジオボイス』とか『スイッチ』って言葉でも記述でもスカシちゃって気取っちゃって、インテリっぽく書いちゃってるから読んでも面白くない。結局、読者に伝わって来ないから、おもしろそうだなって買った人でも全部は読まない。それじゃ意味がない。カルトムービーにしてもフリークスやゲイを扱った海外小説の紹介にしても、気取って紹介してたら面白さは伝わりにくい。面白い物を面白いよって伝えるためには、わかりやすい言葉で語らないといけないなっていうのは感じてましたね。

本誌/確かに読んで面白かったし、始め、興味がなかったテーマでも、分かって来たって感じありますね

青山/こう言う本が売れてるからとか、こんなテーマがウケる時代だから、それを出そうって言う作り方をしてませんからね。それをやっちゃうと、結局は作り手が分かってないから、あとから、本当に分かっている人が出てきたら勝てないし、大手が飛び付きうなテーマを扱っても、最終的には大手の資本の前には勝てない。結局、ミニコミを作っている感覚ですよね。自分が本当に面白いって思うテーマを、どこがおもしろいのか素直に伝える。読者には、その面白さを分かって貰おうとはするけど、ただウケを狙うようなことはしたくないですね。その方が長続きする。この先、そういうテーマが僕になくなったら、やめちゃうと言うか、企画を同じような感覚を持つ人に任せるとか(笑)。

本誌/『危ない1号』のために何が必死で調べたとか勉強したってことは。

青山/ありませんね。テーマ的には学生時代にやってたミニコミの『突然変異』とあまり変わらないですから。よく分からないことを分かったように気取って書く必要もないわけです。それより、常に自分の好きなテーマを下世話に下品にゲスに扱って行きたいと思っていますし……。

本誌/『危ない1号』で扱っているようなテーマと言うとどうしても、知識はあるけど文章の面白くない学者や専門家とか、文章は旨いけれど実際はよく分かってないなと言うライターがやたら目立つ気がするんですが。

青山/ほとんど、そのどちらか。偉い学者とか、専門的ですごくおもしろい知識を持っている人とかでも、文章を書く上で芸がないから、せっかくの情報が読者にあまり伝わらない。これは勿体ないよね。そこで下世話で核心をついた、言わば『危ない1号』文体で書けるライターがリライトしたり、あるいは取材して、記事にする。リライトと言ってもただテニヲハや言葉を直すだけじゃなくって、音楽で言うリミックスと同じ感覚ですよね。当然、テクスト誰々、下種リミックス誰々と表記してね。そんなシステムを確立したいと思っています。ただ、これは先方の承諾をもらうとか、まず、リライトできる人材を育てたり発掘したりしなきゃいけないんで。

本誌/ライターの育成って、けっこう大変なんじゃないですか。

青山/そう言う意味で、現在、僕が見て「芸人」と言えるライターは、企画面でも協力してくれている村崎百郎ですとか、あと、柳下毅一郎、早田工二、ニコラス啓司、猫田にゃんなんて言うあたりが一歩先行してると思います。他にも、あいつらすげえぞと思う人も何人かいます。そう言った人達には、単なる物書きじゃなくて、文章で人を楽しませる“芸人”になってくれって言ってるんです。ただ、この仕事を始めて気付いたことなんですけど、ライターや漫画家などクリエイティブな方面で優れている人は、社会生活はまともじゃないのが多いって言う話は本当だなって(笑)。今まで、そう言う話は信じたくなかったんですよ。なんかカッコ悪いでしょ、優れたアーティストだから実生活はメチャクチャなんて言うの。でも、実際に一緒に仕事したりして、こいつ凄いって思ったヤツは変なのが多い! 5分おきに電話して来るヤツとか、夜中に何十枚もFAX送って来る、朝の7時ころに突然自宅に訪ねで来るとか。そう言う人がクリエイターとして優れているとは言わないけど、優れている人にはそういう人が多いのは確か。だから、この仕事を続けて行く上では、企画出しとか打ち合わせ、進行と言った実務よりそう言う連中と付き合って行く方が大変だし楽しいんですよ。ただ、この先そう言う人が回りに増えてそればかりに時間をとられるのもかなわんなァと言う気がしていて、僕の代わりに相手をしてくれる部下を早急に育てなくちゃと思ってるんです(笑)。

 

鬼畜と言うより自分に素直になって貰いたい

本誌/言葉として「鬼畜」と言う表現を多用されてますよね。今、言った凄いけど変なライターとかも、その範疇って言うことになりますか。

青山/まず『危ない1号』の中で使った鬼畜という意味なんだけど、これは世界で初めてカルト集団を作ったハッサン・イ・サバー*1と言う人物がいて、この人は、ドラッグとセックスで信者に天国を見せておいて、もう一度天国を見せてやるからお前らの命をくれみたいなことをしたんですが、その人の言葉に「この世に真実などない。だから、何をやっても許される」って言うのがあるんです。それって、ある程度正論なんですよ。たとえば後ろから殴るのは正義に反すると言うけど、誰だって、後ろから突然殴られたくない。だから、私も後ろから殴らないから、あんたも後ろから殴らないでねって言う弱気の正当化でしかない。そんな情けない正義や道徳なんかにこだわらず、もっとオープンマインドで生きようって言うことを読者に提示したかったんです。

「鬼畜」と言うのは、あくまでも最初のとっかかりなんですよ。映画でも、派手なキャッチを付けて客寄せするでしょ。あれと同じ。だって、本当に鬼畜を全面OKしたら、編集部に爆弾しかけられたり、僕が読者から刺されたりしても許さなきゃならないってことになる。

死体とか奇形と言った悪趣味の世界を扱うのに「鬼畜」と言うキャッチがインパクトもあるし、しっくり来る。そう言う露悪趣味で「わァ、何、これ」と言う感じで人を引き付けておいて、本当にやりたいのは人間関係のドロドロした部分、たとえば、夫婦間の問題とか友人同士の騙しあいと言った精神レベルの問題を増やして行きたいと思ってます。奇形や死体の写真をズラズラと並べたりするより、悪意の一言の方が実生活ではインパクトが強いに決まってる。永山薫注:「よく人間性とかヒューマニズムとか云いますけど、人間が動物と決定的に違うのは、裏切ったり、他人を騙したり、陥れたりする点ですよね。人間らしさって、卑劣さってことですよ」と、微笑みながら彼は俺に語った。しかし、少なくとも俺は彼に裏切られたことはない。世話して貰った憶えは一杯ある。カルト・ライターだとか、ドラッグ・ライターだとか、カリスマだとか、元祖鬼畜だとか、冠は色々あるだろうし、その側面も俺は否定はしない。虚像も実像の内だ。ただ、俺にとっての彼は気弱で優しいくせに大胆で捨て身でマヌケな男だった)

もっと常識とか人間関係とかに縛られず好き勝手なことを考えたり行ったりしなくちゃ楽しくないでしょ。法は守った上でね。そんなことを訴えたいと思ってます。

本誌/思想的な部分を取り入れながら下種で下品なテイストを生かして行くと言うのは難しくないですか。

青山/確かに、そこが知恵の絞り所なんですよ。種明かししちゃうと、3号の特集は「快感」なんですよ。たとえば入浴は気持ちがいい。入浴しながら放尿するともっと気持ちがいい。ところが子供の頃は楽にできた銭湯やプールなんかにつかったままの放尿が大人になると、すんなりできない。力んでも出ないんですよ、すぐには、それは、知性とか理性とか言ったものが無意識のうちの抑圧として働くからで、そんな抑圧なんかに左右されずに入浴しながら放尿しちゃおう、と。窮屈な抑圧から魂を解き放とうよって感じで、鬼畜話を通してオープンマインドを訴えることができる。そう言った意味では、露悪趣味的なテイストと思想的なことは決して相反する物じゃないんです。

結局、鬼畜と言うキャッチを見て読んた人が、本当に気持ちよさそうだなァと思ったり、実際に実行したりすると言う所で一体化させていけば、読み込んでくれた読者なら分かってもらえますし、競合誌も出にくいわけですよ。現実の社会って、外からの影響力に左右されやすいんですよ。たとえば、会社をクビになったからとか、女にフラれたから不幸だとか、宝くじに当たったら幸せだとか……。いい大学を出ていい会社に入って、金稼いで嫁さんもらって、海外旅行に行ってと言うような枠にはまった形でしか幸せだと思えない。それじゃ、あまりに寂しい気がするんですよ。たくさんの人がいて、人それぞれの価値感の中で幸せがあるんだから、周りの人と違っているから幸せじゃないとは考えてほしくない。だから、一巻目を出して読者の反響の中に、読んで何か元気になったって言うのがあったのが嬉しかったですね。ワクワクして買ってもらって、元気になって貰えればいいと思ってましたから。本当に、どうせ生まれたからには元気になろうよって思うし、しょぼしよぼしながら生きていくなら死んじまえって思いませんか(笑)。

本誌/先程、読者の反響のお話が出ましたけど、読者ってどんな人達が多かったんですか。

青山/千差万別と言うか、かなり広範囲でしたね。若いのは中学生ぐらいから、三十代から四十代ちょいのところまでかな。一番、多かったのは、十代後半から二十代後半ぐらいまででこれは僕も嬉しかったんだけど、男女比率は五分五分でしたね。やはり五十代なっちゃうと、世間体とか、いろいろあって手が出せないんでしょうね。

本誌/その年代って、ある意味での日本の文化を作り上げて来た世代なんですけどね。リアルタイムでビートルズを体験したり、学生運動とかヒッピー文化とかが元気だった時代の中心として……。

青山/そうですね。あの世代のパワーが、その後の世代に受け継がれて来なかったんです。その原因が何なのか知りたい気がしますね、最近の若い連中って、メディアを通じていろいろ知識はあるけど、それを実際に体験してみるのは何かかったるいって感じが、いつもするんですよ。それに、中学生のころから化粧して、茶パツにして、日焼けして、セックスもバコバコやって、ドラッグにもそこそこ手を出してなんてやってたら、もう、楽しいことなくなっちゃうよって言いたいですね。でも一度解放されてしまった抑圧は、元に戻せないんですよ。今更、中高生はセックスしちゃいかんなんて言っても誰も聞かない。じゃどうするのかって言うと、全部やり尽くしちゃって「世の中、面白いことなんかないじゃん」って言ってる子達にこんな面白い事がまだあるんだよって言うのを提示して行ければなあ、と思いますね。読者と一緒に試行誤しながらね。

今、メディアの世界だけでウケてるってことが凄く多い。スカトロビデオ見てせんずりこいてるだけで、実際にはクソまみれになったこともウンコ食ったこともないヤツとか。でも、そうやってメディアだけの世界に嵌まるって言うのも一つの手なんですが、それもいずれ飽きる。それなら、いろいろと体験して行くべきだと思うんですよ。死体の写真を見て喜ぶだけじゃなくて、実際にコロンビアあたりに行って死体を見て、触れてみるとか、それが無理なら、せめて親族が死ぬ時ぐらい、死の瞬間に立ち会って、人間ってこういう風に死んで行くのかって実感するとか。『危ない1号』にしても、最終的にはこれを核にして会員制の媒体でも作って、本当に分かる人だけを対象とした濃い内容の情報を提供するような形に持って行きたいと思ってます。たとえは外科医の先生が手術で余った肉片を、食べてみたい人に譲りますとか、ここに行けば、本物の少女とセックスできますよとか……。ただ、読者にも、こう言う情報ってメディアが発達すればするほど奥深く潜行してしまうものだから、本物の情報が欲しいなら、表に出ているメディアとアクセスするだけでは絶対に入って来ないと言うことは知って欲しいですね。はっきり言って市販されているメディアでは本当にヤバイ事なんかできるわけないから。ヤバイ事に手を出したいと思えば、それなりに努力することを覚えてほしいです。努力をしていれは、自然にそう言う情報は入って来るんですよ。入って来ないと言うのは、その人がそこまでだっていう事なんです。分かる人だけに、濃い内容をと言うのは、そう言う事ですよ。読者にも、そのへんを読み込んでもらいたいと思いますね。

(文・取材/斉田石也)

▶アングラ雑誌『サバト』に掲載された青山召喚の魔法陣。黒魔術の使い手なら反魂の術で青山氏を復活できるかも。

青山正明氏のPROFILE

1960年横須賀生まれ。慶応大学在学中に同人誌『突然変異』を創刊。各方面から注目を浴びる。それがきっかけで、ロリコンブームの仕掛人・中崎至にスカウトされ、ロリコンブームの隆盛に多大なる影響を及ぼす。その当時から『ヘイ!バディー』(白夜書房)、『にんふらばあ』(麻布書店)などのロリータ系マニア誌のみならず、『ビリー』(白夜書認)などでドラッグ、フリークス関係の情報を中心とした連載を手掛け、さらに『サバト』(三和出版)、『フィリアック』(求龍社)など、鬼畜系のハシリとなる雑誌を編集。その後、コミック雑誌の編集、株式投資関連の情誌の編集などに携わった後、再び鬼畜系の世界にカムバック。『クラッシュ』(白夜書房)、『バチュラー』(ダイアプレス)などにフリークス、ドラッグ、カルトムービー、テクノ・ホラーなどの情報を連載する鬼畜系文豪。1994年編集プロダクション「東京公司」を設立、『タイ読本/別冊宝島EX』『裏ハワイ読本』『裏タイ読本』(以上宝島社)、『アダルトグッズ完全使用マニュアル』(データハウス)その他のウラ情報誌を編集すると共に、ドラッグ関連の時報の集大成をした著書『危ない薬』(データハウス)を発表。1995年『危ない1号』を創刊。1996年初頭クズ人間、ダメ人間、ゴミ人間の総決起集会『鬼畜ナイト』を開催する。現在はデータハウスに所属し、『危ない1号』の編集を手掛けるが、今後、何を始めるか目が離せない存在。一般人の読者のみならず、業界内にもシンパ的ファンが多数存在する。

*1:ハッサン・イ・サバー(ハサン・サッバーフ)

11世紀から13世紀半ばまで暗殺教団(アサシン教団)を率いてイランからシリア全土の山岳地帯に要塞を築いたといわれるイスラムシーア派イスマーイール派ニザール派の開祖。別名「山の長老」。ハシシ(大麻樹脂)の投与による神秘体験で部下をマインドコントロールし、暗殺者へと仕立てる手法がやがて「ハシシを使う人=ハシャシュン」という言語とミックスされ「暗殺者」を意味する「アサシン」として現在に伝わったという説がある。ウィリアム・S・バロウズのアイドル的存在。「真実などない。すべては許されている」(Nothing is true; everything is permitted.)という言葉はあまりにも有名。