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エロ劇画ルネッサンスの終結とニューウェーブの台頭―劇画が死滅する日(高取英)

エロ劇画ルネッサンス終結ニューウェーブの台頭

高取英

所載:檸檬社『漫画大快楽』1981年9月号(通巻100号)

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現在、エロ劇画(三流劇画)戦線は、300円劇画誌の定着、商業誌として売れゆき安定、創刊誌があいつぐという状況下にあるが、作品としては、停滞期にある。

エロ劇画ブームを荷なった劇画誌と主な作家は、以下のとおりである。

76、7年、石井隆の突出(それは、78年、『別冊新評、石井隆の世界』にまとめられている。)主な発表誌は、『ヤングコミック』である。石井隆の突出によって、何人かのエロ劇画家たちが、その亜流化をはかった。それは、70年前後、演劇界における唐十郎率いる状況劇場の突出によって、幾多のアングラ劇団が、唐十郎化したことに似ていなくもない。

石井隆の亜流化の中で、独持の世界を開化させたのは、『大快楽』『劇画ジョー』等に作品を発表していた羽中ルイつつみ進である。

78年、エロ劇画ルネッサンスを荷なった劇画誌の中心は、『漫画エロジェニカ』『劇画アリス』の二誌である。もちろん、この時期、二誌と並んで御三家といわれた『大快楽』、プラスワンで四天王といわれた『ハンター』(久保書店)、闇の帝王といわれた『悦楽号』(サン出版)の存在無視することは出来ない。

78年、『漫画エロジェニカ』で人気を集めたマンガ家は、ダーティ・松本(『悦楽号』でも活躍)、中島史雄清水おさむ、村俊俊一、小多魔若史川崎ゆきおである。『大快楽』出身の編集者亀和田武によって編集された『劇画アリス』で人気を集めたマンガ家は、井上英樹飯田耕一郎(二人は、『ハンター』でも活躍)、清水おさむ、である。

この二誌が話題をよんだのは、表2で裸体をさらけだし、「執着」等のコピーで注目された亀和田のスポークスマン活動と、「漫画界のNHKビックコミック』粉砕」を叫び、発禁第1号となった『エロジェニカ』のドン・キ・ホーテ行為にあったのであろう。

79年、エロ劇画ルネッサンスの中心は、『大快楽』にうつり、ひさうちみちお宮西計三(『アリス』でも活躍)、平口広美、いつきたかしが人気を呼ぶ。

この時期、『エロジェニカ』は、いしかわじゅんを、『アリス』は、吾妻ひでおを起用し、エロ劇画路線としては、異色の道を取り込もうとする。

78、79年エロ劇画ルネッサンスはここまでである。漫画界における三流劇画ブームは終結したのである。

 

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79年の秋、エロ劇画誌ではないが、三流資本誌『コミックアゲイン』(みのり書房)が、ニューウェーブ特集を特集をしている。大友克洋さべあのま柴門ふみ高野文子ひさうちみちお宮西計三たちが取り上げられているものである。このニューウェーブ路線は、80、81年と『マンガ奇想天外』『漫金超』によって受けつがれたといってよいであろう。

漫画界は、三流劇画ブームからニューウェーブへとブームをうつすのである。

それは、エロ劇画誌からみれば、エロと、ニューウェーブの泣き別れといったものであった。ひさうちみちおと、宮西計三の二人がニューウェーブ特集の中に組み入れられていることに注目されたい。

亀和田が、「劇画への愛を」と呼んだポーズとは逆に劇画編集の仕事をサボって、『アリス』の編集は、同人誌『迷宮』の橋本高明と米沢嘉博に移った。劇画実験室(これはヤユではない。)となった『アリス』は、現在ニューウェーブの一員とみなされる、近藤ようこまついなつきを起用したが、80年に休刊となった。『エロジェニカ』は、柴門ふみ、くげぬまかを、山田双葉、まついなつき、みねぜっとを起用し、ニューウェーブ路線を取り込みながらも、会社が経営難のため倒産し、廃刊となった。80年7月のことである。

『大快楽』は、編集者が交代し、その内容は変化した。

 

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80年前半に、『エロジェニカ』vs『大快楽』戦がコラムページを中心に闘かわされたが、これは、ひとことでいいあらわすととはできない。象徴的には、亀和田(アリス)批判をくりかえした流山児祥(エロジェニカ・元青学全共闘周議長)が、板坂剛(大快楽・元日大全共闘もどき)を3秒でKOしたととで示すととができる。もちろんこれは、飯田耕一郎のいうように「内部分裂」でもなく「内ゲバ」というようなものではなかった。

この決戦後、『アリス』を追放されていた亀和田(自称全共闘・成蹊大)が、板坂に連帯を求めたのもうなずけるととろがある。インチキはインチキと手を結ぶものだからである。『エロジェニカ』vs『大快楽』をCOM派とガロ派の宿命の対決と巷で耳にしたが、別に『エロジェニカ』がCOM派であったわけではない。

 

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80年、エロ劇画ブームの沈帯は、エロの測面でみるなら、ビニール本のブームによる影響を上げることが出来る。そして、エロ劇画誌としては、大手資本である集英社の『ヤング・ジャンプ』、講談社の『ヤング・マガジン』のエロ路線を含む低価格青年マンガ誌の創刊による影響もあげられる。エロ劇画誌は、ビニ本ブームと、二大青年マンガ誌の創刊によるサンドイッチ攻勢をモロにかぶったのである。

紙代、印刷代の値上げで200円から300円に値上げせざるを得なかったエロ劇画誌にとって、この状況は厳しかったはずである。

現在、ニューウェーブというワクに囲まれることなく、エロ劇画の世界で力作を発表しているのは、石井隆ヤングコミックつつみ進(エロトピア)羽中ルイクレオパトラダーティ松本(『快楽号』『ハンター』)中島史雄(『エロトピア』『GANG』)平口広美(大快楽)村祖俊一(快楽園)つか絵夢子(タッチ)井上英樹(ハンター)清水おさむ(快楽園)などである。

エロ劇画ルネッサンスの諸作品は、久保書店サン出版、けいせいコミックス、ブロンズ社の単行本に収録されている。とりわけ、わが友、小松杏里担当のけいせいコミックスがエロ劇画+ニューウェーブ(奥平衣良、渡辺和博まついなつき)の両方にまたがって健闘中というところである。

現在、注目に価する新人は、谷口敬(野島みちのり)と丸尾末広である。谷口敬の代表作「弥彌子に」は、秀れた少女劇画であり、宮西計三風の絵で、花輪和一的エロ・グロナンセンスを描く丸尾末広の代表作「童貞厨之介」(『ピラニア』)は秀逸である。

エロ劇画ルネッサンスは、何事かによって、引きつがれるであろう。

少くとも私が『COM』と『ガロ』の流れを『エロジュニカ』で引きついだ程度には。しかし、そのためには十年程度の歳月を必要とする。

(たかとり・えい/マンガ評論家)