帰宅したら青山正明死去の情報。
まだ本当かどうかわからないが、また葬式か、とぼんやり思う。驚きはするものの、意外性がその死にこれほどまつろわぬ人間も珍しいのではないか。
青山正明関係の情報がとぎれとぎれながら入ってくる。てっきりクスリで体がガタガタになっての死だと思ったら自殺、しかも腹を切って首をつったらしい、というすさまじい話がつたわってくる。『ハンニバル』のジャン・カルロ・ジャンニーニみたいな死に様だったということか。
やはりクスリでの発作的な行動か、それとも覚悟の上の凄絶な死か?風聞だが、永山薫が私とモメた一件で、青山正明に手打ちの仲介を頼もうとしたが、すでに彼の体がそんなことに耐えられなくなっていた、という話がある。あれほどの男がこのまま忘れられていくのは寂しいな、と思っていたが、ラストでなんというインパクトある死を。
彼の鬼畜・悪趣味関係の仕事での独走ぶりはズバ抜けたものがあった。何度も一緒に仕事をしたし、話もしたが、クスリにしろ少女姦にしろ、“実体験”に基づいたそのエピソードは面白いったらなかったし、その才能に羨望もした。しかし、話しながら“同じ分野でも、彼みたいになってはいけないな”ということはビンビンに感じたものだった。彼のような方向性の仕事は、自分をどんどん狭いところに追い詰めていき、一般読者を排除して、しまいには自分自身をも破裂させてしまうのではないか、と思ったのである。
ことこのような事態になってからこんなことを書くとアトヅケと思われるかもしれないが、これは正直なところである。逆に言うと、彼の背中を見ていたからこそ、私はカルトライターながらも一般向けというワクの中にとどまれたのかも知れない。
初対面はまだ私の参宮橋時代の喫茶店だったが、最初から“実はいま警察に尾行受けているんですよ”と語ってくれたのはいかにも青山正明らしかったと思う。で、“××社なんかが、「青山さん、いっそ警察と完全に敵対して、おたずね者になって、その逃亡体験記書きませんか」なんて無責任なこと言ってタキツケるんで、大弱りしてるんです。他人事だと思って”とボヤいていた。話す内容は狂気のレベルだったが、目は温和でオドオドさえしており、マスコミが勝手に作り上げる青山正明像に無理して合わせているという感じが見てとれた。
青山正明というと鬼畜だのドラッグだのという言葉が反射的に浮かぶが、実は彼はその合間に、実に平凡でつまらぬ編集・ライター仕事をせっせとやって、それで稼いでいたのである。彼の他の鬼畜系ライターがみんな彼のようになろうとしてかなわなかったのは、まっとうな仕事もちゃんとこなせる、というその、基盤の常識的能力の差にあったと思う。私の『女性自身てば!』の構成も担当してくれたし(途中で別の仕事が忙しくなったので降りてしまったが)、思えば最後に彼と打ち合わせをしたのは、まるきり青山正明らしくない、『逮捕しちゃうぞ!』の謎本を書くライターを紹介してくれないか、という件であった。
そのちょっと前にクスリで逮捕されて、出てきたばかりのところであったので、鶴岡などは“『逮捕されちゃうぞ!』って本だした方がいいんじゃないですか”などと言っていたけれど。そのとき、警察関連のコレクターを紹介して、“彼、本物の逮捕状まで持ってるんですよ”と言うと、恥ずかしげに笑って、“ボクも見たことあります……”と言った。“でも、一応見せられるんですが、足がガクガクして、頭の中なんか真っ白で、何が書いてあったかなんて、まるで覚えていませんねえ”とのことで、それを聞いて、ああ、この人、本心は気が弱くて常識家なんだな、と思った。まあ、それだからドラッグなどに走ったのかもしれないが。
私に会うと口癖のように、“今の若いライターは文章力がないからダメだ”とこぼしていた。“ライターの文章は商品なんですよ、自分が書きたいことを書くのでなしに、人がそれを読む、ということを認識して書かねばいけないのに、そんな基本がわかってなくて、自分本位の文を書き散らかしている。何考えてんでしょうね”と言っていたのを思い出す。青山正明にこう言われていたのである。今日びの若手のモノカキたちは、これを彼の遺言と思ってほしい。
青山さんの件で、フィギュア王N田くんはじめ、数名の関係者から電話。持っている情報はだれも同程度のものらし。ところでN田くんはなんと札幌での通夜に来てくれていたらしい。驚く。あまりに人が多数参列しているので、こちらに声もかけられなかったとか。K子に“N田くん来てたんだって”と言うと、間髪を入れず“えっ、黒いアロハで?”と来た。
(中略)3時、村崎さん来、さっそく鬼畜対談。話題はもう当然、宅間守一色。なにか村崎さんに元気なく、人生や社会に対し諦念ぽい考えがまじる気がしたのは、盟友だった青山正明を失ったショックか。村崎さんの話では、腹切って、はデマだそうな。フィギュア王にも青林工藝舎にも(私のとこにも)腹切って、という情報で伝わっているのだが、出所はどこか?
「オレは鬼畜だからまったく悲しくないんだけどさ」
と、何回も自分に確認するように村崎さん、くり返していた。
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